危機一髪…じゃねぇな―良平サイド―
文彦の奴が学校に来ている。
たぶん、瑛梨香を自分から離さない為だと思う。
アイツ等の目的は瑛梨香がいずれ受け継ぐ財産―広大な土地なのだから。
その為だけに、アイツ等は瑛梨香に近づいた。
あの時、小学4年の時に瑛梨香と仲良くなった事を利用して。
言葉巧みに瑛梨香を騙そうとしているのは分かっている。
『ごめん…本当…今は…誰を…何を信じていいのか分からないの』
事態に混乱している瑛梨香。
『良平…ごめんね』
悲しそうに言う瑛梨香。
謝るのは、こっちの方だ。
俺と仲良くなったばかりに、瑛梨香は傷ついたのだから。
本当、ごめん…瑛梨香。
生徒会の仕事をこなしながら、何気に瑛梨香に気を配る。
日野と高坂にも、瑛梨香の事を頼んでおいた。
『わかった…もし、アイツが近づいたら知らせる』
日野の言葉を信じて、俺は生徒会長としての仕事を続ける。
息を切らせて高坂がやってくる。
瑛梨香が、文彦に捕まったらしい。
嫌な予感しかしない。
急いで二人の姿を探す。
「あの…」
30代と40代の男性が俺に話しかけてくる。
今は、誰かに構っている暇は…
出された警察手帳。
「とりあえず、話は後で…ついてきてください」
もしかしたら…刑事である彼らが一緒の方がいいかもしれない。
そういう気がした。
次に瑛梨香の両親と会った。
瑛梨香と文彦との婚約解消は、聞いている。
昨日、あの女が荒れ狂っていたから。
瑛梨香の両親も、瑛梨香の身が心配でならない。
あいつは、2年前にも【気にいったから】という理不尽な理由で、日野の姉を襲ったのだから。
とりあえず、全員で瑛梨香達を探す。
『助けて!良平!』
空き教室から瑛梨香の声がした。
『無駄だ!!こんな所に誰も来るはずがないんだからな!』
文彦の勝ち誇ったような声。
「瑛梨香!!」
俺が叫ぶ。
ドアにはカギがかかっている。
仕方ない、力ずくで…
『あははは!!良平!!見ていろ!!今から、お前の大事なものを奪ってやる!!』
狂ったような文彦の声。
力一杯ドアに体当たりする。
まぁ、この前のだったが、ボロい校舎で助かった。
ドアは簡単に破られた。
ネクタイで両手首を縛られた瑛梨香が文彦に組み敷かれている。
「瑛梨香!」
もう一度叫ぶ。
俺の他に、刑事や瑛梨香の両親、それに日野と高坂が続くように中に入ってくる。
不利と見たのか、文彦が瑛梨香から離れる。
急いで、瑛梨香の手首を解放させてやる。
「良平!」
俺に抱きつく瑛梨香。
「よかった…」
心から出た言葉。
何もされてなくて…よかった…
「お前が瑛梨香にした事は、絶対に許せない」
そう言ってから、一緒にいた刑事を見る。
「警察です」
彼らは告げたと同時に文彦の顔色が変わる。
「大野文彦…婦女暴行未遂の現行犯で逮捕する」
と、手錠を文彦にかける。
「2年前の事件も、ゆっくり話を聞かせてもらう」
厳しい口調の40代くらいの刑事。
「それと、大野良平さん」
30代くらいの刑事さんが俺を見て
「あなたには、継母と兄からの虐待について、話を聞かせていただきます」
と言われ
「分りました」
俺は、短く答えた。
「僕は無実だ!!」
文彦が周囲に向かって叫んでいる。
「これは、警察の横暴だ!!」
周囲に知らしめるように言っていたが、誰もが冷やかに見ているだけだ。
これから、アイツ等の仮面が暴かれていくだろう。
自業自得だから、仕方ないけど…
これで、大野総合病院は終わりだな…
瑛梨香が不安げに俺を見ている。
「大丈夫、何も心配しなくていい」
そうだ…お前が何も心配する必要はないんだ。
そう思って、抱いている肩に力が入る。
「良平君…」
瑛梨香の母親が俺に語りかける。
「瑛梨香…傷ついていると思いますから、お願いします」
そう言って瑛梨香を立たせる。
縛られていた手首が痛々しい。
「保健室に行きましょう」
母親に支えられるように、瑛梨香は空き教室を出て行った。
…守れなかった。
また、怖い目に遭わせた。
悔しくて唇を噛む。
ごめん…瑛梨香…
嫌な思いをさせてばかりで…ごめん
だが、俺は生徒会長だ。
文化祭を進めないとならないし、騒動も教師と連携して収めないとならない。
宗吾がやってきた。
「危機一髪だったな」
そう言って肩に手を置く。
それを払い
「全然、危機一髪じゃねえよ…怖い思いばかりさせて…」
自嘲気味に言う。
「でも、未遂だったろ?」
そんなの…ただの気休めだよ。
「あのさ…良平」
徐に、宗吾が口を開く。
「彼女に、自分の気持ちぶつけてみろよ」
その言葉に驚いたが
「俺には、そんな資格ねえよ」
と、答えた。
そうだよ…
俺に…
瑛梨香を守れない俺に
そんな資格はないんだ…
瑛梨香…
俺はお前を愛する資格なんて…ないんだ
分かっているさ…
でも…
それでも…
瑛梨香…
お前が愛しく感じる。
それが、お前にとって邪魔なモノだとしても…
それでも…
俺は、お前を愛し続ける…
ずっと…
あの出会いの時から
ずっと…
お前だけを
愛しているよ…




