文化祭の事件
それをちゃんと伝えないと…
その前に…私は、婚約解消を両親に伝えないと
ちょうど、いいのか
両親は文化祭に見学にきていた。
「お父さん、お母さん…私…」
「分かっているわ」
お母さんは、私が何を言いたいのか分っているようだ。
「もう先方には、伝えておいたから【娘と文彦さんとの婚約については解消いたします】って」
「それはもう先方は怒っているけど、仕方ないわ。婚約解消の損害賠償を起こすって言われたけど…解消理由は、文彦さんの事件についてだから」
「え?」
あの事件を知っていたの?
「噂でね、大野総合病院では緘口令が引かれていたらしいけど、おしゃべりな職員っているから」
だったらどうして…?
という言葉を飲み込む。
たぶん、絶対に、私の為…
私が傷つくから…
孝子達と一緒。
みんな私の事を思って黙っていてくれていた。
ありがとう、お父さん、お母さん。
「それに、あなたは良平君が好きだからね」
お母さんの言葉に驚く私。
なんで分かっているの?
「だって、あなた分かりやすいんだもの」
苦笑しながらお母さんは言う。
なんか、すべて見透かされている気がする。
「ちゃんと、告白しなさいよ」
耳打ちしてくれたお母さんに、黙って頷く。
ちゃんと良平に自分の気持ち伝えないと…
でも、良平は今は忙しい。
生徒会長だから、文化祭は忙しいのだ。
なのに、私の為に息を切らせて屋上にきてくれた。
すごく嬉しかったよ。
それでも、私は良平の姿を探す。
でも、神様って意地悪なのかもしれない。
見つけたのは、良平じゃなくて…
文彦さんだった。
文彦さんは私を見るなり
「お母様から聞いたよ」
それは、たぶん婚約解消の話だろう。
「それは、瑛梨香…君の意思なのかい?あの事件の事なら誤解だと…」
「私の意志です」
短く答える。
「何を信じていいのか、誰を信じていいのか分かりませんでした。でも、私、良平や孝子、それに陽菜の言葉を信じます」
そう言って頭を下げて
「ごめんなさい」
そう告げて立ち去ろうとした。
だけど、強い力で腕を掴まれて
「困るんだよ…瑛梨香、君と結婚しないと…」
掴まれた腕が痛い。
「本当は、こんな真似はしたくないんだが…」
そう言ってから、引き摺られるように空き教室に押し込まれる。
「何を…?」
だが、それはすぐに分かる。
たぶん、孝子のお姉さんと同じように…
【ガチャリ】
ドアを閉める音。
「文彦さん…」
厳しい顔で、文彦さんを見据える。
「こんな事しても…私はあなたを好きじゃありませんから」
必死に強がる。
「知っているよ。お前が良平を好きだってことはな!!」
口調が変わる。
今までの優しい口調じゃない。
悪魔のような嫌な口調だ。
スマホを取り出し
「お前が乱れる姿を、写真に撮ってやるよ。そして、良平に見せてやるんだ!!!」
そう言って高笑いする。
冗談じゃない!!
私は必死に逃げたけど、狭い教室だからすぐに捕まる。
文彦さんは、身に着けていたネクタイをはずしてから、私の両手首を縛りつける。
外そうとしても、キツく結んであるから解けない。
「くっくっく…」
厭らしい笑いが響き渡る。
助けて…
助けて!!!
「助けて!良平!!」
力一杯叫んだ。
「無駄だ!!こんな所に誰も来るはずがないんだからな!」
勝ち誇ったような文彦さんの声。
だけど…
「瑛梨香!!」
ドアの向こうから声がする。
「あははは!!良平!!見ていろ!!今から、お前の大事なものを奪ってやる!!」
狂ったように叫ぶ文彦さん。
だけど…
この前のようにドアが蹴破られた。
「瑛梨香!!」
心配そうな良平の他に何人もの大人が…両親が…親友がいた。
不利を感じたのか文彦さんは、私から離れる。
良平は、縛られている私の両手首を解放する。
「良平!!」
思いっきり良平に抱きつく。
良平も私を思いっきり抱きしめる。
「…よかった」
小さく呟くのが分かる。
良平は、文彦さんを見据え
「お前が瑛梨香にした事は、絶対に許せない」
そう言ってから、一緒にいた男性2人を見る。
「警察です」
彼らは告げた。
「大野文彦…婦女暴行未遂の現行犯で逮捕する」
そう言って、手錠を彼にかける。
「2年前の事件も、ゆっくり話を聞かせてもらう」
厳しい口調の40代くらいの刑事さん。
「それと、大野良平さん」
30代くらいの刑事さんが良平に
「あなたには、継母と兄からの虐待について、話を聞かせていただきます」
そう言われ
「分りました」
良平は、短く答えた。
「僕は無実だ!!」
文彦さんが叫んでいた。
「これは、警察の横暴だ!!」
周囲に知らしめるように言っていた。
でも、誰も信じないだろう。
これから、私への暴行未遂、孝子のお姉さんへの暴行が明らかになっていくのだから。
これから、どうなるのだろう?
文彦さんとの婚約は、なくなるだろう。
でも、大野総合病院は…どうなるのだろうか?
信用失墜は、免れないと思う。
小父さま…良平のお父様は、どうするのだろう?
やはり、後継ぎを良平にするのだろうか?
私の表情から良平は
「大丈夫、何も心配しなくていい」
そう言ってくれた。
私が聞きたいのは…そんな言葉じゃない…
良平…あなたの心が…知りたいの…
肩を抱く手に力が入っている。
「良平君…」
お母さんが、良平に語りかける。
「瑛梨香…傷ついていると思いますから、お願いします」
そう言って私を立たせる。
縛られていた手首が痛い。
「保健室に行きましょう」
お母さんに支えられるように、私は空き教室を出る。
チラリ、と良平を見る。
生徒会長だから、後処理とか大変だと思う。
良平は、悔しそうに唇を噛んでいた。
どうして?
どうして、そんな顔をしているの?
そんな…悲しそうにしているの?
お願い…そんな悲しい顔をしないで…
棘はチクリと私の胸に突き刺さった。
良平の気持ち…
心が知りたい…
私、ちゃんと自分の気持ちに正直になるよ…
だから、良平の心…
ちゃんと見せて…




