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帰宅―良平サイド―

上がジャージ姿であろうとも、この屋敷に連中は気にも留めない。

出迎えもないしな。

その日は、珍しく執事の諏訪と、会ってしまう。

この屋敷で、俺を人間的に扱ってくれる唯一の人間。

だが、雇われている以上は俺にあまり関わらないようにしている。

「良平様…どうかなさいましたか?」

ジャージ姿を見て、諏訪が口を開く。

「別に何でもありません」

そう答えてから、自分の部屋に向かう。

やはりコートがないのは痛いな。

寒くなって行く季節には敵わない。

「良平様…」

「自分に関わると、何を言われるかわかりません」

短くそう告げてからその場から去る。

『諏訪!!』

あの女の諏訪を呼ぶ声が聞こえてくる。

諏訪は急いで、居間の方に行く。

行き慣れた階段を上がって、ベッドに寝そべる。

ブレザーの予備はあるから、大丈夫だけど。

明日は…たぶん、瑛梨香の事だから、お礼を言ってくると思う。

そうしたら、今日の事が、あいつ等の耳に入ってしまう。

そう思うと億劫になる。

知られても構いやしないさ。

だけど、八当たりされる屋敷に人間の事を考えると…胸が痛い。

出来るなら、瑛梨香が屋敷に来る前に家を出るか。

そして、瑛梨香を捕まえて…

それしかないな。

とりあえず、服に着替えてから鞄から宿題を取り出す。

スマホが鳴る…というか震える。

俺は、常にバイブ状態にしてある。

俺の電話の音すら、不愉快に感じる人間がいるからだ。

だから、音は出さない。

発信主は、宗吾だ。

「もしもし…」

俺が電話に出ると

『おっ、お姫様は無事に送り届けたか?』

陽気な宗吾の声は、たまに救われる。

俺が、自分の事について、暗くならずに済んでいるのは、瑛梨香と宗吾のお陰だろう。

特に宗吾は、様々な事情を知っているから、特に救われている。

「あぁ…届けた」

短く答えると

『送り狼にならなかったか?』

「ならねぇよ」

傷ついている瑛梨香に変な真似なんか出来るかっての。

『まぁいいけどさ。それより、今日の事…』

「分かってる、知られないようにしないとな」

そう言いながら、拳を握り締める。

『でも、知られると思うよ。だって、向こうの親がお礼にやってくるだろうし』

痛いところを突く。

そうだ、瑛梨香の両親の性格を考えると、近いうちにやってくるだろう。

そう思うと、少し重い。

『お前は、何も悪くないのにな』

宗吾が呟くように言う。

「仕方ないさ」

そう答えてから、自分の立場を考える。

そうだよ、俺が何をしようとも…ここでは…

「くしゅん!!」

俺がくしゃみをすると

『おい、風邪か?』

宗吾が心配そうに問う。

寒いから仕方ないさ。

この部屋は特にな。

「大丈夫だ、文化祭が終ってから寝込む事にするよ」

自虐的に答える。

『おう、それまでは頑張れ。あとは生徒会選挙だけだからな』

そう言って笑い合う。

ドアが開く音。

「おっと、もう時間切れだ…じゃあな」

そう言ってから電話を切る。

階段を上がる音。

「…夕食をお持ちいたしました」

そう言ってから、残飯のような皿が俺の前に差し出される。

メイドは、すぐに階段を降りて行く。

俺に関わると、ろくな目に遭わない事を知っているからだ。

俺も慣れている。

今日も不味そうな飯だ。

だが、食べないとならない。

仕方ないし、箸を手に取る。

…うわ…まず…

それを我慢して食べ続ける。

食べ終わった頃、再びドアが開く音。

階段を上る音からして…あの女か…

入ってきて早々に

「よく、そのようなモノが食べられる事!」

嫌味のような言葉を吐く。

「何か御用でしょうか?」

挨拶のように聞く。

どうせ…

「瑛梨香さんに、近づいてないでしょうね?」

その確認だろ?

瑛梨香が、俺に近づきすぎると困るとお前らだもんな。

「気をつけています」

短く答える。

その瞬間に、頬を打つ音が響き渡る。

「あなたのような人間が、ここで暮らせる事自体、おこがましいのだから!!立場を弁えなさい!」

そう言ってから、俺を叩いた手をハンカチで拭きとる。

俺はバイ菌かよ?

近くにあった棒みたいな物体を握り締めて

「あなたさえいなければ!!」

そう言って、俺の背中を殴る。

この女が時々起こす癇癪みたいなものだ。

だが、俺はそれに逆らう事が出来ない。

それが今の俺の立場…ってやつだ

殴られようともどうされようとも逆らえない。

そんな風に憎いなら、最初から俺を引き取らなければよかったのにさ。

自分の体裁とか名誉の為だけに俺を屋敷に招き入れた。

俺は、子供だから…

何も出来ないし、逆らえない。

こいつ等の言う通りにしておかないといけない。

俺は…愛人の子供だから…

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