安堵感ー良平サイドー 2
無邪気な顔して寝息を立てている。
今なら、キスぐらいしても…
なんて、誘惑の嵐だ。
事情を知ったのか
「大丈夫かしら?」
保健医が聞いてくる。
「わかりません」
俺は短く答えた。
あんな目に遭ったんだ、相当ショックなハズ。
そう思いながら、眠っている瑛梨香を見つめていた。
その間に瑛梨香の家に連絡を入れる。
瑛梨香が襲われた事を話すと、さすがに狼狽していた。
迎えに来るという小母さんに
「俺が、ちゃんと送り届けます」
そういうと、おばさんは安心したように
『良平君、よろしくね』
そう言ってから電話を切る。
しばらくすると、瑛梨香が目を覚ました。
だが、すぐに恐怖の表情になる。
「奴なら、警察に引き渡した。もう大丈夫だから」
そう告げても、瑛梨香の中に植えつけられた恐怖が消えるハズがない。
「ごめんな。ついていってやれなくて」
ごめん、本当に俺が…宗吾でもいいから、ついて行けばよかった。
「そんな!」
勢いよく起き上がるが、掛け布団がずれて胸が露になる。
恥ずかしそうに掛け布団で胸を隠す瑛梨香。
こんな姿で事情聴取を受けさせる訳にはいかないよな。
そう思って、俺は徐に自分の着ていたシャツを脱いで瑛梨香に渡す。
「今から、警察の事情聴取があるから、これ着とけよ」
と言うと、瑛梨香は戸惑ったように
「でも…」
俺がシャツ無しになるのを気にしているらしい。
「俺はジャージでも着ているから」
そう答えて、俺はカーテンの向こうに行く。
瑛梨香の心情を考慮してか、女性の警察官が瑛梨香の事情聴取をしてくれた。
その間に教室にジャージを取りに行き上に着た。
ゆっくりと、話を始めた瑛梨香。
だが…その話声が止まる。
カーテンの向こう側でも瑛梨香が震えているのが分かる。
「瑛梨香!」
思わず叫んで中に入る。
真っ青な顔をして、今にも倒れそうな瑛梨香。
俺は、迷わず瑛梨香の隣に座り肩を抱く。
安心したのか、瑛梨香は続きを話し始めた。
内容は、とてつもなく不愉快だったが…
瑛梨香のブラウスが破かれた瞬間の時になると、肩に置いている手に力が入る。
…話すのも嫌だろうな。
だが、俺が乗り込んだお陰で、未遂に済んだ事は…本当によかったと思っている。
事情聴取が終わると
「すみません。ですが、ご協力ありがとうございます」
そう言って刑事さんは頭を下げた。
「ここ最近、おこっていた女子高生の盗撮事件も、これで幕を降ろせると思います」
瑛梨香を犠牲にしたのは許されないけど、もう被害者が出ない事はいいことだ。
その刑事が去り際に
「その人、彼氏さん?」
とからかわれて、瑛梨香は
「幼馴染です!!」
思いっきり否定しやがった。
結構、傷ついたけど、お前の前では出さないよ。
「あの…良平…」
俯いた瑛梨香。
「ん?」
自然に、声が優しくなってしまう…いかん、いかん。
「助けてくれて…ありがとう」
素直にお礼を言う瑛梨香。
でも、俺は素直になれず
「別に…生徒会長として…当然の事をしただけだよ」
そっけなく答えた。
これがいつもの俺だよな。
瑛梨香が安堵の表情になる。
だが、すぐに暗い表情になる。
百面相だな…
「さ、帰るぞ。小父さんや小母さんが心配しているだろうから」
そう言って、俺と瑛梨香の鞄を持つ。
宗吾が持ってきてくれた。
ついでに言うと、残りの生徒会の仕事も決裁してくれる…らしい。
ありがたい限りだ。
「あ…もしかして…」
不安げな表情を浮かべる瑛梨香。
「小母さんには、一応説明しておいた」
俺の言葉に、ガクンと肩を落とす。
「話したんだ…」
親に知られたくないのは分かるけど、やっぱり親だから話しておくべきだろ?
「当たり前だろ?親なんだから」
俺の胸が痛む。
俺には…もう…
「お母さん来るの?」
瑛梨香の問いに、俺は首を横に振って
「俺が送って行きますって伝えておいた。だから…帰るぞ」
そう言って瑛梨香を促す。
だが、立ち上がろうとした瑛梨香の足が震えていた。
やっぱり、まだ恐怖は消えてないんだな。
当たり前だよな…
俺は、瑛梨香の腕を取って立ち上がらせる。
「大丈夫か?」
そう聞くと、瑛梨香は
「大丈夫」
強がりで返してきた。
「無理するな」
そういうと…
「あれ…」
瑛梨香の瞳から涙が零れてきた。
「瑛梨香…!」
俺は、どうしていいのか分らなかった。
「怖かった…怖かったの。ほんとは…すごく…」
泣きながら、瑛梨香は震えた声で言う。
当たり前だよな。
だから俺は、抱き締めた。
ぎゅっと、キツく。
瑛梨香が少しでも安心するように。
俺の心のままに…
許される訳ないのに…
瑛梨香が応えるように、俺の背中に手を回す。
瑛梨香…
俺は、どうやら
許されない領域に
行きそうになる。
そんなの許される訳ないのにな…?
それでも、お前を…
愛しているよ…




