安堵感―良平サイド― 1
瑛梨香が、生徒会室から離れていく。
しばらくしたら、戻るだろう。
だが、俺の中に言い知れようのない不安が渦巻いていた。
そういや、さっき知らない奴…あからさまに不審者らしき人間が学校の周りをウロウロしているって、報告があったな…
前から、周辺の高校で起こっている
【女子更衣室盗撮事件】
犯人は、まだ捕まっていない。
今のところ、うちの学園で被害は出てないが、いつターゲットになるか分からない。
そこのところを学校側に訴えたんだが
『大丈夫だよ、うちは』
なんて暢気に構えているんだよな、うちの教師達は。
瑛梨香の向かった先は女子更衣室。
胸騒ぎがする。
「宗吾…後、頼む」
「え?…おい…」
あっけにとられている宗吾を尻目に生徒会室を飛び出す。
悲鳴が聞こえた。
瑛梨香の声だ。
俺が間違う訳がない。
急いで女子更衣室に向かう。
『さぁて、その奇麗なお胸でも堪能しようかね』
厭らしい声とビデオが回る音がする。
「瑛梨香!!」
思わず叫んでしまう。
『りょう…』
俺の名前を呼ぼうとしたが
『んんー!!』
口を塞がれたけど、助けを求めているのが分かる。
ドアは、カギがかかっていて全く動かない。
でも、瑛梨香を助けないと!
俺は、必死にドアに体当たりした。
古い校舎だから、ドアはあっさり破れた。
中で見えたのは、見知らぬ男に馬乗りされている瑛梨香の姿。
制服のブラウスが破かれ、胸が露になっている。
「瑛梨香!!」
俺が叫ぶと、男はゆっくり立ち上がり
「てめぇ…」
男が俺に向かって殴りかかろうとしていたが、それを交わして鳩尾に一発入れてやる。
結構、弱いな…こいつ…
男は、白目を剥いて気絶している。
「瑛梨香…」
俺が倒された瑛梨香に近寄ると
「良平!!」
そう言って抱きついてきた。
怖かっただろ?
そんな言葉すら呑み込んでしまった俺。
ただ抱きしめて
「もう大丈夫だから」
とだけ言う。
次の瞬間、瑛梨香の体から力が抜ける。
相当怖かったのは、容易に予想できる。
安心したから意識を手放したんだろうけど…
俺…一応、男なんだけど
そんな胸を露にされたら
視線に困る。
とりあえず、ブレザーを脱いでから瑛梨香の上にかける。
そして、そのまま瑛梨香を、お姫様抱っこしたまま保健室に運ぼうとした。
おっとその前に…
何があったのか?と言わんばかりに宗吾がやってきた。
「何があった?」
事の重要さに宗吾は気付いたようだ。
「例の女子高生盗撮の犯人…そこで白目剥いている奴だから、通報しといて」
それだけ言うと
「分かった」
とだけ答えてスマホを取り出す。
「で、お姫様は、どうするの?」
宗吾の問いに
「保健室に連れて行く」
それだけ答えて、瑛梨香を保健室に運んだ。