事件 1
文化祭まであと1週間しかない。
クラスで必死に、メイド喫茶の仕上げに入っていて
不器用な私は、雑用係をしている。
仕方ないか…
今日も、雑用を押し付けれる形で放課後、残っている。
雑用と言っても、後片付けだけど。
時刻を見ると6時過ぎてる。
いけない!
早く帰らないと…
クラスの大半は、帰宅の途に着いていて、私を含め残っているのは数名。
でも、この時間なら…
良平と一緒に帰れるかもしれない。
そう思うと、なんだか嬉しいな。
もう、空も近いし
やっぱり、男子と一緒に帰った方が安心だよね、うん。
何で、いい訳がましい事を誰に言っているんだか…
とりあえず、後片付けは、もう少しで終わる。
「おつかれちゃーん」
その声を最後に、作業は完了。
鞄と補助バックを持って帰ろうとしたけど…
そういや、体操服を持って帰るつもりだったのに…
女子更衣室に忘れてしまっている…
もう…忘れっぽいのにも程があるよ…まったく。
仕方ないから更衣室に取りに行くか。
そう思ってから
「お疲れ様」
とクラスメイトに言ってから教室を出る。
女子更衣室は、体育館に近い場所にあるから、教室からは案外遠い。
窓の外には、帰宅している生徒が、まばら。
良平、まだいるかな?
ちょっと生徒会に寄って行こう。
生徒会室は…あ、まだ明かりがついている。
とりあえず、ノックする。
『はい』
良平の声がする。
「失礼します」
そう言って、ドアを開ける。
真剣な顔をして、書類(たぶん文化祭関連)を決裁している姿は、すごくカッコいいと思う。
この人が、将来義弟になるんだから、ちょっとは自慢だ。
ふと、良平を顔を上げてから、驚いたように
「瑛梨香?」
と眉を顰める。
「何の用事ですか?ここが生徒会室だと分かっていますか?」
厳しい口調で言う。
「…すみません」
私は、頭を下げてから
「今日、一緒に帰れる?」
と、用件を述べた。
良平は、困惑した表情を浮かべる。
「だって、こんな暗い中、一人で帰るのは…」
「だよねー」
私の言葉を切って、相槌を打つのは渡辺君。
「こんな暗い中を女の子一人は、危ないですよー」
と、良平に言う。
良平は、困った表情を浮かべながらも
「分かった…もう少しで終わるから、待ってろよ」
そう言った。
やった!!
久しぶりに良平と帰れる。
「中で待ってる?」
渡辺君の言葉に、私は首を振って
「女子更衣室に忘れ物したから、ちょっと取ってきます」
「ついていこうか?」
「いえ、いいです」
そう言ってから、生徒会室を後にする。
ついてきてもらえばよかったな…なんて後悔したのは後の事。
ついてきてもらっていれば…
あんな怖い思いしなかったのに
女子更衣室を目指して歩いている時も、周囲は闇に包まれていく。
うーーーやっぱり、ついてきてもらえばよかった。
そう思いながらも、後には引けない。
怖い気持ちと闘いながら、先に進む。
女子更衣室が見えてきた。
やっと辿り着いた。
そう思った。
でも、なんだか変…
だって、暗闇の中に、チカチカと灯りが…
誰かいるの?
そう思いながらも、更衣室へ近づく。
ゆっくりと、足音を立てないように。
更衣室のドアに手をかけて
【ガラリ】
とドアを開ける。
闇の中に黒い物体が見える。
それは人の形をしていて
頭には懐中電灯が取り付けてあって
手には小型のカメラが握られていた。