文化祭準備ー衣装完成!
「「可愛い!!」」
親友二人の声に、私は驚く。
今は、メイド服の衣装合わせの真っ最中。
出来たばかりの真新しいメイド服に着替えて鏡の前に立つ。
「うんうん、いい出来」
満足そうな陽菜に
「やっぱさぁ、ちょっとくらいメイクしようよ」
ウキウキした様子の孝子。
そう言われて、二人のなすがままにメイクを施される。
鏡の中の自分が、まるで別人のようだ。
「素材がいいからなぁ、瑛梨香は」
孝子に言葉に
「ええ?そんなことないよぉ」
と否定する私。
だって、容姿も十人並みだし、体型だって…自慢できるもんじゃない。
良平みたいに、カッコよくて、頭もいい訳じゃない。
「ね?瑛梨香?」
陽菜の問い
「今…この姿、誰に見せたい?」
…
…
…
その時、頭に浮かんだのは良平。
でも、私は
「文彦さんに、決まっているじゃない」
そう答える。
「ふう…ん」
陽菜は、納得できない様子だったけど
「まぁいいわ。これでメイド服は完成だから、あとは客引きのチラシ作りだね」
そう言ってから、他のクラスメイトと話を始める。
目線をずらすと、藤宮さんと目が合う。
プイっと逸らされた視線。
何だろ?
やっぱり、衣装に負けているからかなぁ…
ガクンと肩を落とす。
「お…生徒会長、めずらしいね」
クラスメイトの声に、教室の入口の方を見る。
良平と副会長である渡辺君が、入口に佇んでいる。
「生徒会のチェックだよー」
少し陽気に言う渡辺君。
クラス全体から、ブーイングに近い声。
「企画書以外の事はやってないって」
「予算もちゃんとおさえているし」
そんな声が上がる中
「仕方ないっしょ。これが俺達の仕事なんだから」
愛嬌のある笑い方をしながら、渡辺君は言う。
「な?会長」
そう言って、良平に同意を求める。
教室を見渡してから、パッと視線が絡み合う。
良平の表情が固まる。
やっぱり、似合ってないのね…
私の心は、どんよりと落ちている。
「会長、どうですか?うちのメイドさんは?」
孝子が良平に茶化すように聞く。
良平は固まっていたけど…
すぐに手元の資料みたいなものを見て
「スカートの丈、短めじゃない?出された企画書とはちょっと違うみたいだけど」
似合っているかどうかはスルーですかぁ?
「いやいや、ちょっと手違いがありましてね。今から作り直すと文化祭に間に合わないですから」
陽菜が言い訳がましく言う。
良平は深くため息をついた。
「大丈夫、中には短パン履く予定ですから」
言い訳がましい陽菜に、良平はため息をついて
「風紀を乱すような事はしないようにしてください」
それだけ言うと、教室から出て行く。
「じゃあねぇ、頑張ってちょうだい」
そう言って、ひらひらと手を振りながら教室を後にする渡辺君。
「お前らも、同じクラスだろうが」
「ちょっとは手伝えよ!!」
そんな野次を無視して、隣のクラスへと向かう二人。
…やっぱ、似合ってないのかな?
スカートの裾を握り締める。
「あの…」
藤宮さんが私に話しかけてくる。
しかも、気配を感じさせずに…
だから
「きゃ!!」
と声を上げてしまった。
「ご、ごめんなさい」
藤宮さんが謝る姿に
「いえいえ、こっちが勝手に驚いただけだから」
そう言って、手を振る私。
「あの…ですね…上手くいえませんが…」
藤宮さんが、しどろもどろに話をする。
「似合っていると思いますよ」
私の心情を見抜いているのか?
彼女の言葉に少しだけ救われる。
「お世辞でも嬉しいです」
私が照れながら言うと
「いえ…本当に…よく似合ってます」
そう言って、頬を赤くする彼女。
何故、赤くなるんだ?
「藤宮さんが、デザインしてくれたお陰だよ」
そう言ったら、藤宮さんは慌てて
「いえ、澤部さんの元が可愛いだけで…私のデザインなんか澤部さんの可愛さを引き立てるだけです…」
藤宮さんがモジモジしながら言う。
なんて可愛らしいんだろう。
「では、私は、作業がありますから」
そう言って、彼女は去っていく。
そういや、絵の上手さを買われて、看板のデザインをしているんだっけ?
ラフで見せてもらったけど、すごい上手なんだよね。
ほんと美大とかに進学したらいいのに…
でも、口に出すのは、余計なお世話ってもんだから口には出さないけどね。
一生懸命、作業をしている藤宮さんを横目にしながら
「さ、着替えるよ」
そう言ってから、孝子に再び更衣室へと連行されていく。
でも、なんだろう?
違和感…感じるんだよね。
藤宮さん。
どこか…