忠告―良平サイド―
「ちょっと、生徒会長」
怖い声をして、俺に話しかけてきたのは日野。
高坂も付いて来ている。
「何?」
俺が答えると
「ちょっと、付き合ってもらえない?」
日野の言葉に、俺は圧されそうになる。
何て迫力だ。
「宗吾!」
高坂が、宗吾を呼ぶ。
そういや、こいつらも幼馴染みだっけな。
「何?陽菜?」
書類の決裁に夢中になっていた宗吾が顔を上げる。
「会長、借りていい?」
高坂の言葉に、宗吾は少し悩んでから
「いいけど、文化祭の準備とかあるから、短めに」
宗吾の了承を受けて、日野は俺の手を取り
「こっち…」
そう言って、人気のない校舎裏に連れて行かれた。
「一体、何の用だ?」
俺の問いに
「分かっているでしょう?」
日野は、イラついた様子だ。
「瑛梨香の事よ!」
日野の言葉に、俺はビクッと体を震わせる。
そうだよな…
瑛梨香の親友だから、瑛梨香が心配なんだよな。
「分かっていると思うけど、私達は瑛梨香に傷ついてほしくない。でも、このままいけば…」
分かっている。
いつか、あの事が瑛梨香に知られる事になるくらい。
「私達、あの事を瑛梨香に話そうと思う」
高坂の言葉に驚く。
「そんな事したら!!」
瑛梨香が傷つく。
「でも、言わない方が、もっと瑛梨香は傷つくし苦しむわ」
高坂が言い
「お姉ちゃんも、決心をしたわ」
日野の言葉に驚く。
「…日野、それから姉さんは…?」
俺の問いに、一瞬眉を顰めたが
「…今は、幸せに暮らしているわ。一時期は…もう…手がつけられないくらい荒れていたけど、彼氏の地道な励ましが効いて、やっと笑うようになった」
「だったら…」
「だからこそ、真実を明らかにしないとって思っている。姉さんも同じ意見よ。姉さんは、このままじゃあ瑛梨香が傷つくを言っていた。だから…」
日野の言葉は、俺の胸にズシンときた。
そうだ、真実を明らかにしないと…
このままじゃ瑛梨香が傷つく。
だけど…
「私達だって、瑛梨香が傷つくことは分かっているわ。たぶん、絶対に信じないと思う。だから…」
日野は、言葉を濁す。
「あなたは、瑛梨香を守って」
その言葉に驚く。
「瑛梨香を守る?」
俺が問うと
「瑛梨香は傷つくと思う。あの事を知られたら、あの人が何をするかわからないわ。だから、瑛梨香を…守ってほしいの」
高坂が言う。
その瞳には、真剣な事が宿っていた。
「…俺は、自信がないよ」
弱気な事を吐いてみる。
「は?」
驚く二人に
「今だって、俺は何も出来ない。アイツ等の言いなりになっている。無力な俺に、瑛梨香が守れるか…」
そう言って、自分の掌を見る。
出来るなら、守ってやりたい。
だけど、俺にはそんな力はない。
まだ、ガキだし。
大野家に養われて生きている。
そんな俺が瑛梨香を守れる訳ない。
「何、弱気な事言ってるのよ!!」
そう言って、俺の背中を叩く高坂。
「あんた以外、瑛梨香を守れる人間いないのよ?好きなんでしょ?瑛梨香が」
いきなり核心をつかれて驚く俺。
「分かるわよ、瑛梨香に対する態度を見ていると。必死に守ろうとしているのが」
高坂の言葉に、俺はグッと拳を握り締める。
「でも…俺は…」
無力な自分を思い知らされている。
瑛梨香を守ってやりたい。
だけど、俺にはそんな力は…ない。
「側にいてあげて」
「日野…」
「私のお姉ちゃんが、そうだったように、誰かが傍にいてくれるの、大切だと思う。だから、あなたは瑛梨香のそばにいてよ」
日野の言葉に俺は黙って頷いた。
「わかったならいいわ。話すのは、文化祭の後にするね」
そう言ってから二人は去っていく。
…俺は、守れるだろうか?
瑛梨香、お前の笑顔を
守ってやれるだろうか?
自分の掌を再び見る。
何もない掌。
何の力もない掌。
俺は…お前を…守ってやれるだろうか…
あの事を知ったら、お前は俺から離れていかないだろうか?
俺を軽蔑の眼差しで見ないだろうか?
それほどに、あの事は重い。
重いと感じている。
俺は、どうしたらいい?
どうやってお前を守ってやれるのか…分らないよ
疑問だけが頭をよぎっていく。
だけど
俺も何も知らずにいた。
アイツ等の事もだけど
瑛梨香、お前の事も何もわかっちゃいなかった。
早く知っていたら…
俺は…