文化祭準備
「じゃーん」
嬉しそうにエアメールを手にしている私。
それを見て、孝子と陽菜は不機嫌な顔になり
「瑛梨香…何度も言っているけど…」
孝子が呆れたように言う。
「私達の前で、そんなもん見せないでよ」
陽菜の言葉に
「だって、文彦さん、本当にいい人なのよ。私や良平の事を心配してくれて…」
私は、悲しいと思った。
だって、文彦さん、私や良平の事を気にかけているんだよ?
陽菜は、エアメールの内容を読んで、眉を顰める。
「何これ?自分の弟に近づくなって…」
少し怒りがこもっている。
え?気にする事、そこ?
「確かに生徒会長と瑛梨香の仲は、親密だけど…これってただの嫉妬じゃないの?」
明らかに陽菜には悪意が感じられる言葉だった。
「そんな、文彦さんは何か誤解しているだけよ。良平は、不器用なだけなのに」
私が、文彦さんを擁護するように言うと
「それにしてもこれは、行きすぎよ。瑛梨香…」
陽菜が何か言おうとすると
「陽菜!!」
孝子が制する。
え?何?どうかしたの?
陽菜は、バツの悪い顔になり
「そうね…」
そう言ってから
「私たちから見たら、ただの弟への嫉妬にしか見えない。それだけよ」
孝子は、キッパリと言った。
私は、腕を組んで
「あのさ、何度も聞いていると思うけど、何で孝子と陽菜は、文彦さんが嫌いなの?悪い人じゃないよ。優しいし、紳士的だし」
私の言葉に、二人ともムッとしたように
「別に…ああいうタイプがいけすかないだけよ」
孝子が答える。
ん?何か、引っかかる言い方だな。
それ以上の何かあるような…
二人とも目を逸らしている。
【答えたくない】
それが空気で伝わってくる。
本当、文彦さんのどこがいけすかないのかな?
あんな人、何所を探してもいないよ?
紳士的で、かっこよくて、優しい人なんて…
でも、親友たちの態度も気になるわけで…
文彦さんが、親友たちに嫌われる何かをしているんじゃないかって疑ってしまう。
そんな訳ないじゃん!!
だけど、それは棘のように私に突き刺さる。
その正体が何かは私には分らなかった。
「さ、文化祭の準備しようよ。あと2週間しかないんだから」
孝子が話題を変える。
「そうだね…瑛梨香のメイド服も作らないとならないし」
そう言って陽菜はニヤニヤと笑う。
…そうか、私だけがあのメイド服を着ないとならないのか。
親友たちのクジ運のよさを恨みながらも、可愛いデザインだったから私も早く着てみたい。
「衣裳係、大変らしいし、私達も手伝おうよ」
陽菜の提案に孝子が頷いたけど
「瑛梨香は、看板とかの手伝いね」
そう言った。
「は?」
私が首を傾げていると
「瑛梨香…自分の家庭科の成績分かってる?」
孝子が呆れたように言う。
…そうでした、家庭科の成績…悪かったんだった。
私は、天性の不器用だから、被服の成績はよろしくない。
「分かったなら、看板つくりとか飾り付けを手伝いなよ」
陽菜の言葉に頷く。
仕方ないよね…
私、不器用だし
「大丈夫よ、瑛梨香の分は、特に際どく作っておくから」
孝子が、からかうように言うと
「ええ!!それやめてよ」
私は哀願するように言う。
「これを見たら、奴も少しは勇気でるかもね」
ボソッと呟いた孝子。
“アイツ”って誰の事?
私は、それを聞こうと思ったけど
「さ…早く、手伝いに行こう。本当、2週間しかないんだから」
そう言ってさっさと衣裳係の方に行ってしまった。
聞きそびれた…
納得できない私には、心に無数の棘を抱えたまま、手伝いに向かう。
「助かるよ~」
クラスメイトの言葉に、棘の事とか吹き飛んで…というか忘れていて…
作業を続けているうちに、棘が刺さったまま、その存在を忘れていた。
それが、私自身の後悔に繋がるとも知らずに…
孝子…
陽菜…
いつも私の事を考えてくれていたんだね…
この時は、何も知らないで…
すごく、残酷な事をしていたと思う…
ごめんね
そして…
私を思ってくれていてありがとう…