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運命転々

疲れた……


 夕暮れの高校、窓辺から聞こえてる運動部の声は練習を終え、片付けに入っている。何時もなら今校舎に残っているのは僕一人なんじゃないかと錯覚する位だけれど、今日は少しだけ人の気配を感じることができた。


 オレンジ色に染まった美術室で、僕は一人、作品に色を付け足す。


 2時間程前。


「私達は先に帰るから、仕上げはヨロシクね! 後輩くん」


 先輩が僕に声をかけるときは何時だって面倒事を押し付ける時だ。


「ちょっと何してるのー? 早く行きましょうよ!」


 女子グループの一人だろうか?先輩に声をかけた。


「ごめんごめん、すぐ行く!」


 僕はこの時黙って頷くくらいしか出来なかった。


 あーあ、今頃先輩達、今頃カラオケでも行って遊んでるんだろうなー。何で、僕だけ、文化祭の準備なんてしてるんだろ……


 何時だってそうだった、先輩達は、ことある毎に僕に雑用を押し付けて帰っていく。


「そのくせ、僕の絵は評価されず。先輩の絵ばかり評価されるんだ」


 納得がいかない。声にだして呟いたって虚しいだけだ。


 怒りを作品にぶつける。ドラゴンの荒々しさを表現するのにそれくらいしたって別に構わないだろう?


 そういえばこれは、演劇部からの依頼だったっけ、ドラゴンを倒す勇者のお話なんて、高校生には幼稚すぎる気もする。


 先輩も先輩だ、どうせまともにやらないなら引き受けなきゃ良かったのに。


 脚立に登り、感情の乗った筆でドラゴンに目を入れる。


 「竜だ……」


 思わずそう呟いてしまう程に迫力ある立体ドラゴンの首の模型、なんと1/1スケール。


 自分の背を超える大きさの顔を作ることなんてたぶん二度とやらないだろうな。


 我ながら力作だ。画竜点睛なんて、言葉もあるけど本当に勝手に動き出したりしないよね?口を開けるくらいのギミックは仕込んであるけれど……


 そうだ、演劇部から参考にと、今回の台本を借りていたんだ。最後にもう一度、目を通してみようかな?


 そうして、僕は台本を片手に早速読み始める。


──「このドラゴンは時折村に来ては作物を奪って帰るのです、何とかして頂けませんか?」


 着物姿のまだあどけなさの残る女性に向かって、依頼が申し込まれる。少女の頭には狐の耳が着いていた。


「ふむ、ドラゴン退治じゃな? このクロにかかればドラゴンなぞ、一捻りじゃ! その代わり、今日は鱈腹奢って貰おうかのー」


 クロと名乗る少女は尻尾を振り、褒美をねだる。


 交渉判定 4≦(2,4)=6:成功


 判定(ダイスロール)、それは、運命の女神に自らの運命を決定してもらうこの世界の理だ。たとえ、それが本人の実力に相応しくない結果だとしても、その運命に従って世界は動く。


 上手いもんだ、断られたら後がないと言うのに、と酒場のマスターは苦笑いする。旨い飯にありつけそうな予感にクロは頬を緩ませた。



 クロは比較的有名な冒険者だった。だからといって、ドラゴン程の強敵とあれば、油断は出来ないのだろう。酒場の上階は冒険者の休める宿になっており、そこで明日の戦いに向けて入念に準備を進めなければならないはずだった。


「明日はきっと激戦になる、しっかり睡眠をとらねばならんな」


 クロはそう呟くとそこそこふかふかのベットに横になって眠った。睡眠は大事だ。


 そして、次の日。


「薬草がないじゃと!? どういうことじゃ」


「えぇ、今朝、ヘンテコな格好の人達が買い占めて行かれましたよ。今日の在庫はそれでおしまいです」


 クロは何とか私物でも薬草を譲ってもらおうと女神に祈る。しかし……


 (交渉の達成値は……11!? ダメだ、ぼったくられてしまう!)


 どうやら運命の女神はクロを見放してしまったらしい。


「ぐぬぬ。仕方があるまい、薬草は諦めるか」


「まいど!今度はちゃんと薬草仕入れておくからよ!」


 気さくな店主は手を振ってくれた。クロもそれに応じて手を振り返す。


(頼りにされているのだ、期待には応えたい)


 クロの率直な想いだった。何時もなら、準備万端でないなら出直すだろう。だが……


「あれほど豪華な食事を用意して貰った後、なにもせずに帰るわけにはいかんしのー」


 ドラゴンは3メートル位の中規模と聞いている。恐らく、まだ幼体だろう。上手くいけば無傷でも勝てるかもしれない。


 急ぎ足で、町を抜け、森を抜け、ドラゴンがいると言う洞窟に向かうことにした。


 目の前には、薄気味悪い洞窟。


 洞窟の奥から発せられる殺気には、何者も近付かせまいという気迫が感じられる気がした。


「旨い酒が待っておるのじゃ、すまんが狩らせてもらうぞ」


 そう呟いて、足を踏み入れる。洞窟の中はひんやりとしており、真っ暗だった。手に持った松明が唯一の光源だ。


 洞窟は広々としており、たまにトカゲや蜘蛛が通りすぎる以外は只の空洞、隠れられるような岩場もなかった。


 何分か歩き続けただろうか、代わり映えしない景色に気がついたことがあった。


「穴が、大きすぎる」


 この大きさなら10m程の大きさのドラゴンでも余裕をもって住み着けるだろう。


(まずいまずいまずい、非常にまずい!)


 もしもそんな大型のドラゴンと単身で戦えば万全の状態でも負け戦ではないか!


 周辺を注意深く見渡す。


(まだ、逃げられる、か…?)


 逃げ道は後ろしかない、追われれば終わり。だが、気が付くのが少し、遅かった。


 正面の暗がりから体長3m程の竜が顔を出す。巣穴に土足で踏み込んで来た侵入者に敵意むき出しといった所だろう。


「気づかれたのじゃ!やるしかあるまい!」


「ギャォォォ!」


 威嚇だろうか?洞窟に咆哮がこだまする。


 先制判定 10≦(6,6)=12:クリティカル


「よし、先手はわしじゃな!〈抜刀撃〉!」


 先制判定にクリティカルすれば2回攻撃できる。まずは様子見だ。


 抜刀撃 7≦(2,3)=5:失敗


 カスン!


 すかさず抜刀、目の前のドラゴンを切り抜ける。だが、入りが甘い、天然の鎧は伊達ではないのだ。


 少女はドラゴンに向き直り、睨み付ける。


「ちっ!随分と堅牢なのじゃ。ならば、何度でも切りつけるまで!〈乱れ桜〉!」


 乱れ桜 7≦(1,1)=2:ファンブル


 桜が舞散る程の斬撃の嵐にも、ドラゴンは傷ひとつつかない。それどころか刃が砕け散ってしまった。


「くっ!……運命反転!」


 7≦(1,1)=反転(6,6)=12:クリティカル


 その瞬間、砕け散ったはずの刀が元に戻り、ドラゴンの体から血飛沫が上がる。運命反転は人類にのみ天より与えられた秘技、一日に一度だけ自らに起こった運命(ダイスロール)を反転させる事ができるのだ。


「ギャァァァ!」


 ドラゴンが叫ぶ、叫ばせる程度にはダメージを与えられたのだろうか?


 少女は目の前のドラゴンに夢中だった。だから、気がつけなかった、背後から赤い瞳が自身を見下ろしていることに。


 炎のブレス 3≦(5,4)=9:成功


 目の前のドラゴンから放たれた炎が体を突き抜ける。剣を構えたが受けられるものではなかった。


「あちちち!熱い!熱い熱い熱い!」


(焼きロリになるわ!いったいどこに重要があるんじゃ!)


 少女はバタバタと地面を転げ回り、体についた炎を振り払う。そのお陰で、見たく無いものが見えてしまった。


 転げ回る愚者を見下ろす巨大なドラゴンの瞳。大きく広げられた口からは、その全貌を見ることが出来ないが、少なくとも、頭から丸飲みできる程度の大きさであることは明らかだった。


(焼きロリ、需要、あったのじゃ……)


パキッ。


バキ、バキ。


ミシリ。


 ぐちゃぐちゃになった少女をそしゃくする音が洞窟に響く。


ゴクリ。




 ドラゴン討伐に向かった少女が一人、帰ってこない。その噂が勇者達の耳に入るのはそれからしばらくたった後だった。


──その後には、少女の仇を打つ勇者達の勇ましい話が続いている。


「高校生が書いたにしては重いよな」


 僕はそう呟くと、パタンと台本を閉じて、帰路についた。




──「嫌じゃ!嫌じゃー!食われたくない!死にたくない!運命反転!運命反転!」


 少女の叫びは虚空に消える。既にカードは切られた後だ、二度も奇跡は起こせない。


「死にたくない!死にたくない!運命反転!反転!反転!反転!変わってよぉ!わらわの運命……」


 何も無い空間。虚無。少女は死んだのだ。だが、少女はそれを認めなかった。認めたくなかった。


「貴方は死にました」


どこからか、声が聞こえた。


「誰じゃ!?」


 振り向くと、そこには黒いローブを着た人物が立っていた。


「貴方は死んだのです。無惨にもドラゴンに食べられて死んだのです」


「そんな……そんなぁ!嫌じゃ!わらわはまだ、死にたくない!」


「物分かりがあまり、よろしくないのですね。ですが、安心してください、大丈夫です」


「何が安心じゃ!ちっとも大丈夫じゃないのじゃ!あぁ、神様、わらわの運命を変えて下さい!運命反転!運命反転……」


 ふふふふふふ……


 黒いローブが不敵に笑う。


「ふふふ、私が、その神様の使いです。貴方は死にましたが、私の権限で、特別に転生させてあげますよ! さぁ! ダイスロールです!」


「転……生……? そんなことが本当に出来るのか?」


 そう聞いたクロにはお構い無しに、黒ローブは手に持ったサイコロを放り投げる。


 コロン、カラン。


転生判定 6≦(3,2)=5:失敗


「なんでじゃぁぁぁぁ!」


「あらら? 失敗してしまいましたね、流石、ドラゴンに食われた方だ、筋金入りの不幸さんですね。ドンマイ!」


「そんなの嫌じゃー! 運命反転、運命反転……」


「ダメですよぅ、今日はもう、運命反転使っちゃってるじゃないですか、でも、まだ大丈夫、特別に魂だけは、転生させてあげましょう。少し不憫すぎますから」


 クロはテンパっていた。だから、黒ローブの言葉を聞く事が出来なかった。


「もう嫌じゃ! 運命反転、運命反転……」


「あれ、もう狂っちゃった。人間って脆いですねぇ、SAN値、ピンチなんですか? まぁ、いいや。ほら、転生先の運命決めてあげます」


 黒ローブの手からまたサイコロが投げられる。


 コロン、カラン。


世界の運命 6≦(6,6)=12:クリティカル


「おぉ! すごいじゃないですか! おめでとうございます。これで、良い運命の世界に行けますね!」


「運命反転、運命反転、運命反転……」


 クロは虚ろな目をして呟くだけだった。その様子を見て、黒ローブが溜め息を吐く。


「はぁ……壊れた人を相手にしても、つまたんないですね。まぁ、良いです! それでは良い来世を!」


 体が光に包まれる。


「運命反転、運命反転、運命反転……」


 ただひたすらに、虚ろな目で、少女は呟き続ける。


「運命反転」


 光が収まると共に、意識が消え、少女の姿も無くなっていた。





 コロン。


世界の運命 6≦(6,6)=反転(1,1)=2:ファンブル

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