『Initium rei』
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ーー…………其れは本当の本当に突然な事だった。
エムオル達ツブ族にとって「宝物」に相当するーー旧時代のガラクタが沢山埋まっているらしい「宝物の丘」なる場所に案内された時の話である。
足元を見ると土の色と草の緑色に混じって何かしらの物体が埋まっていた。
「…ツブ族が不可侵でいられるのも、商売がギルドに負けない程には栄えているのも何と無く納得した気がする」
なんて事を復讐者は言った。
確かに彼の言った通りだと僕は思う。
旧時代のガラクタなんて、女神に世界をグチャグチャにされてしまった今の世界じゃ、寧ろ本当に宝物だ。
「べんりそうなものなら何でも持っていっていいよ」
何とも気軽にそんな事を言ってしまうエムオルだが、旧時代の代物が山の様に埋もれているらしいから幾つか持って行っても構わないらしい。
寧ろフィリゼンの商人ギルドが発掘を推奨しているらしく、彼等も個人的に関心を向けているのだとか。女神なんかの命令だとかそんなものじゃ無く。
『………おや』
此れは中々良い物そうだ、とニイスが復讐者を呼び、復讐者が彼の指差す方を見る。
ニイスは実態を持っていないので引っこ抜きたくても引っこ抜けない。なので復讐者を頼る。
「おっ…面白そうなものだな……」
導かれる儘ニイスが指定する物を掴み取るや、復讐者は力に任せて引き抜いた。『機械なんだから丁寧に扱え』と怒られてしまったが。
「なんか出たー?」其処彼処から"ガラクタ"を引っこ抜いては放置しているエムオルが、彼等の様子に気付いて近付いて来た。
同じくレミエも様子を気にして復讐者達に近付く。
「何ですかそれ?」
二人が復讐者が持っている謎のガラクタに興味津々としながら覗き込む。
ーー外見から旧時代の代物であるのは確かな様だ。
そして復讐者達は何と無く見覚えのあるものだった。…フィリゼンで"追従者の少女"と相対し、そして彼女に庇われて助かった時ーー少女の正体を彼等は見たのである。
少女の正体は携帯端末、"スマートフォン"と呼ばれているものであった。今回ニイスと復讐者が宝物の丘で見付けた物は其れに似ている。
『スマートフォン、か…………』
ニイスがやや感慨深そうに呟く。
ーー然し彼等が知る限りの例の端末とは、どうやら作りが少しばかり異なった。よくよく見れば外見こそ似てはいるが、復讐者やニイスですら見た事の無いキーが見える。
「起動出来るのだろうか」起動ボタンらしき部分を長押しして、試しに起動してみる。
固唾を呑み込み見守る一行。
ーー…………そして、明るくなる画面。
どういう訳か不思議な事に何の異常も無く起動出来てしまったのである!!!
有り得な過ぎて声すら出す事も忘れてしまった。
ええええー!!?と吃驚した表情で固まるエムオルとレミエ。
起動した本人である復讐者ですら推し難い事態だったらしく戸惑いを隠せていない。
たった一人だけ、ニイスだけが、状況を理解しているのかそうでは無いのか比較的冷静だった。
「き……起動……………………した………………」
呆気に取られている復讐者をよそに、ニイスがふわりと近付いて確認する。
『おや…此れは……』
ニイスがたった一言、『貸してくれ』と言った。為すが儘に復讐者はニイスへ端末を渡す。声は聞けてもニイスの姿が見えないレミエと、姿どころか声すら聞けないエムオルが居る前で。
すると更に不思議な出来事が起きた。
ニイスが端末を持った途端、彼の存在が此の場に居る復讐者以外の人物であるレミエとエムオルにもしっかりと認識されてしまったのである。
「え…あっ!?貴方は」
「!?なんかいきなり人が出てきたよ!!?」
当然の如く驚く二人。其れはそうだ、二人共ニイスについては正確に知ってる訳は無いのだから。
対する彼は微笑んで、
『やあ。改めて初めまして。僕がニイス。姿を見るのは初めてだったね?』
定型の様な言葉を並べたが、まあまあ当然の事だろう。
だが最も驚いているのは復讐者だった。そもそもニイスは復讐者と「もう一人の人物」、そして女神にしか見えない筈の存在だからだ。
其れがあの変な端末を持った途端にレミエさん達にも見える様になったーー!?
最早考える事ですら出来なくなる程度には事態を理解する事は難しかった様だった。理解に苦しみ、難儀した復讐者は割とあっさりと考える事を止めてしまった。
(もう訳が分からん…)遠い目をする復讐者に対して、彼の投げ出してしまった様子に気が付いたニイスが、
『嗚呼、此れ、大丈夫だよ。僕の気持ち次第で姿を不可視に出来るみたいだ』
等と吐かし、ニイスの姿は驚く二人の前から消えた。
違うそうじゃない。
そういう事を聞きたいのではなくて状況を理解出来無いだけなんだ、ニイス。君は悪くないけれど君が持ってる物は大凡人知の代物じゃ無い。訳分からん、本当に訳分からん。
より面倒臭そうな顔をした復讐者に対して、
『あー…、えっと、端的に言うよ、オーバーテクノロジーかロステクみたいなものじゃないかなって事にしておいて欲しい』
自分ですら説明するのが下手過ぎてとても申し訳無さそうな顔をしていたが、彼の言葉で大体は分かったらしい。
あーそっかそっか。
「昔何かのまとめとかで見た事があるやつ」という訳だ。まあそういう事にしておこう。じゃ無いと何が何だか分からなくなる。
そんな事もあって、ニイスの『此れは僕が持ちたいから持っておくね』の一言で其れはニイスの所有物となった。
どうやら何か分かっている様子で例の端末を使っている様だが、あまり言及しないでおく事にした。
偶にニイスの姿は無く其の端末だけが空中を浮いている事もあったが、多分ニイスが何かしらしているのだろうと看做してなるべく気にしない様に心掛けた。
………。"彼奴"に聞けば、何か分かったりするのだろうか?
ーー……………………。
……………………。
…………。
復讐者から其の儘此の端末を頂いて、其れから色々と行って分かってきた事がある。
どういうものであるのか正確には分からないが、此の端末は「端末を通して引き出した"特定の事柄"に関した情報を何らかの媒体を通して君達に提供する事が出来る」代物である事。
此れを盤と呼称する事にした。
正体こそ不明な物だが、端末から可能な限り望む情報を引き出せるらしいので、あの「アカシックレコード」に擬えて暫定的にそう名付けた。
恐らくそちらの方では小説の様な形式で閲覧する事が出来るだろうと思う。
とは言え引き出す張本人である僕が話を書く事が苦手なものだから上手く伝えられないかもしれない。
よって、僕が盤から引き出せた事柄の類は此処に上げていく事にする。
此の部分まで読んでくれた君よ、有り難う。何とか合間を縫って引き出す様に努めるからどうか気長に待っていて欲しい。




