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ラミアな子と迷宮採取人 ~ペットから始まる家族物語~  作者: 藤正治
第一章 ラミアな子と迷宮採取人
27/30

27.この子は

連日投稿 第三弾


二話同時投稿の二話目

「…………あれ?」

 レイクはベッドの上で目を覚ました。

 しばらくボーとしてから、身体を起こそうとした途端、

「イタッ!? イタタタタッ!?」

 全身を襲う筋肉痛に悲鳴を上げた。

 再びベッドに身体を預け、呻きながら痛みに耐える。


 ――夢を、みていた気がする。

 やけにはっきりとした、現実感のある夢を。

 しかし思い出そうとする端から、風に舞う砂のように記憶が散らばってしまう。


「レイクさん!?」


 バタンと勢いよく開いた扉の音で、夢の残滓は完全に吹き飛んでしまった。

「良かった! 目が覚めたのね!!」

「…………アンナ?」

 部屋に飛び込んできたアンナが、ベッドに駆け寄る。

「心配したのよ! 一時はどうなることかと――――」

 途中で、彼女は口元を押さえて涙ぐんだ

「いったい何が……それに…………」

 周囲に視線を巡らせば、ここがパッシーニ家の客室だと気付く。

「レイクさん、大怪我をして村の外で倒れていたのよ」

「…………ケガ?」

 自分の腕を見ると、包帯がグルグルと巻いてある。

 しばらく考え込んでいたレイクは、

「ミミイ!?」

 閃光のように記憶が蘇り、ベッドから飛び降りようとした。

 しかし痛みでバランスを崩して、床に転げ落ちる。

「レイクさん!?」

 慌てたアンナが、レイクを抱き起す。

 焦燥感に駆られたレイクが、もがくように立ち上がった。

「まだ起きちゃダメよ!」

「……いや…………もう、大丈夫みたいだ」

 慎重に身体の具合を確認しながら、レイクは首をひねる。

 筋肉痛は無理な身体強化の反動だが、動ける程度には怪我が修復されている。

 自分でも説明できない、そんな奇妙な信頼感があった。

「とにかくベッドに戻って!」

 取り押さえようとするアンナの手を躱し、レイクは部屋を飛び出した。

 身体強化の応用で痛覚を遮断し、廊下を突っ走る。

 ―――ミミイは、どうしたのか?

 ダンジョンから脱出した後、気を失ったらしい。

 その後で村の誰かが自分を発見し、ここに担ぎ込んだのだろう。

 なら、一緒にいたミミイはどうしたのか?

 いつものように、ちゃんと逃げ隠れしたのか?


 パッシーニ家の住居から、雑貨屋の店内に出た。

 店の扉の向こう側で、ざわざわと大勢の人間の気配を感じる。

 扉に体当たりして、店先に転がり出た。

 何かを取り囲むように、村人達が集まっている光景が見えた。

 レイクは、必死になって叫んだ。

「ミミイ!!」


「トーチャ!!」


 人垣の向こう側から、ミミイの声が応えた。

「待ってくれ! 待ってくれ!!」

 懇願の叫びを上げながら、レイクは村人達を掻き分ける。

 最悪の予想が、レイクの脳裏を過ぎる。

 ミミイは幼くて小さい、か弱い存在だ。

 そして捕獲されたモンスターが、どういう扱いを受けるか考えるまでもない。

「頼む! 止めてくれ! お願いだから!!」

 絶叫しながら押しのけて進むと、不意に人垣が割れた。

 勢いを殺しきれず、地面に倒れ込む。

 肘をついて顔を上げたレイクは、その光景を目の当たりにする。


 サマンサの孫娘メアリが、ミミイを人形のように抱っこしていた。

 メアリは背丈が低いので、尻尾がだらんと地面に着いている。

「トーチャ!!」

「ミミイ!!」


「あっ! こらっ!」

 するりとミミイが腕から抜け出し、メアリが声を上げる。

 着地したミミイが、猛スピードで地面を這う。

 そのままの勢いで、身体を起こしたレイクに飛びついた。

「トーチャ! トーチャ!」

 レイクの胸の中で、ミミイが叫ぶ。

 安堵のあまり、レイクは腰が抜けてへたり込んだ。

 そこでようやく、周囲の様子に気付く。

 村人達が、なんとも表現しがたい顔でレイク達を見詰めていた。

「あの…………」

 どんな言い訳も通じない、最悪の状況である。

 しかし世話になった村人に、怪我をさせる訳にはいかない。

 密かに脱出策を練っていると、追い付いたアンナが人垣を割って現れる。

 レイクの前に回り込むと、無言でゲンコツを落とした。


「アダッ!?」

「どうして今まで黙っていたの!」

 腕を組んだアンナが、仁王立ちで怒鳴る。

 怯えたミミイが、レイクの胸に顔を押し付けて縮こまった。

 彼女を腕の中にかばいながら、レイクは項垂れるしかない。

 モンスターをダンジョンから連れ出したのである。

 どれほどなじられても、甘んじて受けるしかない。

 鼻息荒く、アンナが言い募る


「なんで! 娘さんがいることを隠してたの!!」



「――――――――え?」

「娘さん、怪我をして倒れていたレイクさんの側で泣いていたのよ!」

 アンナが、キッとレイクを睨み付ける。

「とーちゃん、とーちゃんて呼んで、ずっと心配していたんだからね!」

 レイクの口が、あんぐりと開いた。

 彼が何かを言う前に、人垣の前列にいた老人が言葉を発する。

「その子は、あれじゃな、蛇人の子じゃな」

 老人の名はヘリオット。村の語り部で、若い頃に村を出た経験がある。

 外の世界を知らない村人相手に、ホラ話を吹かす癖の持ち主だ。


 ヘリオットの指摘は蛇人という語感からの単なる思い込み、知ったかぶりである。

 蛇人とは本来、リザードマンに対する古い呼称なのだ。

 ちなみにリザードマンは温厚な種族だが、蛇人と呼ばれると激怒する。

 手足が生えている分、蛇よりも高等生物だというプライドがあるのだ。

 しかし、そんな事情を知らない村人達は、老人の言葉を素直に信じ込む。

 世の中には、いろんな種族がいるのだなあと感心して頷いた。


「あのね、レイクさん?」

 アンナは一転して優しげな表情になり、レイクの前に屈み込む。

「こんな片田舎だから、わたし達は他種族の人達なんて目にしたことがないよ?」

 アンナは指先を伸ばし、ミミイの頭を撫でる。

 ミミイは振り返り、アンナをジッと見詰めた。

「他種族婚について、ちょっぴり偏見があるのかもしれないね?」

 ギョッとしたレイクが、額に脂汗を滲ませる。

「その子がイジメられないか、心配していたんでしょう?」

 見当違いな方角に話が進んでいくが、それを止める術がない。


「でもね? レイクさんの子供なら、みんなで大切にするわよ」

 その通りだと、村人達が優しい笑顔で賛同する。

 とてもではないが、真実を告げられる雰囲気ではなかった。

「男手一つで子供を育てるのは、さぞ苦労でしたんでしょうね」

 酔っ払ったレイクが、怪我をして倒れるまでの、その経緯。

 どんな風にアンナが勘違いしているのか、怖くて問い質すことができない。


「でも、大丈夫! これからは、みんなで手伝ってあげるから!」

 アンナが宣言すると、彼女の幼馴染みである女衆達も近寄ってきた。

 彼女達はレイクとミミイを見下ろすと、非難がましい顔になる。

「ちっちゃい子ね。しっかり食べさせているの?」

「女の子なんだから、可愛い服を着せてあげなきゃダメでしょ」

「髪の毛、ボサボサじゃないの。ちゃんと毎日、梳いてあげなきゃ」

「…………ねえ、その子の尻尾、撫でてもいい?」

 一気にかしましくなる女衆を押しのけ、メアリがレイクの前に立つ。

「レイク! その子、わたしにちょうだい! 子分にするから!」

 両手を差し出した少女の頭に、アンナのゲンコツが落ちた。


 ――ちょっと、おかしくないか?

 レイクは周囲を見回し、困惑する。

 ミミイのことをモンスターだと疑っている様子が微塵もない。

 半分とはいえ幼い少女の姿で、片言でも言葉を発しているせいなのか?

 それにしても――――、


『下半身は蛇そのもの。ダンジョンの最深部に潜み、』

 その時、ようやくレイクは、知人の言葉を全て思い出した。

『一説によると、ラミアは魅了の力を持っているらしい』


「トーチャ!」

 ミミイが首に巻き付き、レイクに頬ずりする。

 その様子を、村人達が微笑ましそうに見守っていた。


 ――きっと魅了とやらは、ささやかな能力なのだろう。

 もし魔法並みの能力ならば、感知できる自信がレイクにはある。


 例えば蛇の胴体をした少女を目にしても、忌避感を抱かせない。

 あるいは、蛇から少女へと変化する過程で違和感を覚えさせない。

 それは幼いラミアが生き延びるための、ちょっとした特技の類なのだ。


 それにレイクにとって切っ掛けや過程など、どうでもいい。

 既にミミイは、レイクにとって欠かすことのできない存在なのだから。

 仮に魅了の魔法に掛かっているとしても、むしろ望むところで問題ない。


「この子は俺の娘で、ミミイ・ヘンリウッズです」


 肩に掛かったミミイの尻尾を撫でながら、レイクは告げる。

「父娘ともども、お世話になります」

 レイクが頭を下げた拍子に、ミミイがバランスを崩す。

 びっくりしたミミイが、慌ててレイクの髪を掴んだ。

「トーチャ! ミッ!!」

 レイクの頬を尻尾でビタビタ叩き、ミミイが抗議する。


 その様子を見た周囲の村人達は、大声で笑った。


明日も投稿します。

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