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ラミアな子と迷宮採取人 ~ペットから始まる家族物語~  作者: 藤正治
第一章 ラミアな子と迷宮採取人
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01.都落ちの迷宮採取人

「…………どうすればいいんだよ」

「ミイッ!」



 レイク・ヘンリウッズは、自宅の食堂で頭を抱えていた。

 目の前のテーブルの上に、外見年齢四歳ぐらい女の子がいる。

 透けるような白金の髪に、翡翠の瞳。

 頬はふっくらとして、あどけない容貌をしている。

 愛くるしい見た目の女の子だが、ちょっとサイズがおかしい。

 片手で掴めるぐらいの、人形のようにちっちゃい女の子なのだ。


 あと、腰から下が蛇の胴体そのものなのが風変りである。

 とぐろを巻く蛇身は、美しい桜色の鱗に覆われていた。

「ラミア、だよな? たぶん…………」

 女の子はレイクを見上げ、ミイと鳴いた。


 ――ラミア。それは上半身が人型で下半身が蛇の、伝説的なモンスターである。

 文献に載っているだけで、迷宮採取人のレイクも目撃したことはない。

 だから今まで、自分のペットがラミアの仔であるという事実から目を逸らし続けられた。

 そしてようやく現実を直視してみたものの、対応が皆目見当もつかない有り様なのだ。


「メシャ! メシャ!」

 頭を悩ませるレイクに向かって、ラミアの仔は盛んに鳴き掛ける。

「ああ、メシの時間か……」

 食事を催促する鳴き声に、レイクは台所からチーズを持ってくると細かくちぎった。

「ほら、ミミイ」

 名前を呼びながら、チーズの欠片をラミアの仔に差し出す。

「メシャ!」

 ちいさな両手で受け取ったミミイは、チーズにかぶりついた。

 レイクの悩みなど知らぬ顔で、もぐもぐとチーズを食べる様子は人族の子供と大差ない。


「…………ミミイは、のんきなだな」

 レイクはうわの空で指先を伸ばし、ミミイのほっぺたを突っつく。

 ミミイは食事の邪魔をするなと、尻尾で彼の手をペシペシ叩いた。

 一心不乱にチーズをむさぼるミミイを眺めながら、レイクは嘆息する。

「なんで、こんなことに…………」



 事の発端は半年ほど前。

 レイクが村外れのダンジョンに潜った日までさかのぼる。


 ◆


 昔々、謎の地下構造物【ダンジョン】が大陸各地に発生した。

 ダンジョンから大量のモンスターが地上に溢れ、大きな被害をもたらしたという。


 これに敢然と立ち向かったのが、【冒険者】と呼ばれる腕利きの戦士達である。


 彼らはダンジョンの奥深くに踏み込み、数多くのモンスターを討伐した。

 さらに倒したモンスターから採れる貴重な素材を地上に持ち帰り、富と名声を獲得。

 冒険者の中にはダンジョンを無力化し、英雄と称えられる者達も現れる。

 これが冒険者の黄金期であった。


 その後、冒険者という存在は衰退の一途をたどるようになる。


 ダンジョンを封鎖するために築かれた城郭が、迷宮都市として発展した。

 そしてダンジョンの開拓が進み、モンスターの群れを駆逐する設備が整う。

 モンスターの討伐は戦いから作業となり、素材を大量に収穫可能となった。


 このような経緯により冒険者は無用の存在となり、歴史から消えてしまう。

 そして迷宮採取人という地元業者が、ダンジョンで働くようになった。


 そんな時代の、三大迷宮都市の一つであるクリュスタルド。

 そこで生まれ育ったのが、レイク・ヘンリウッズという青年だった。

 彼は弱冠一五歳で迷宮採取人となり、ダンジョンで働き始める。

 そして一〇年後、レイクは忽然と迷宮都市から姿を消した。


 様々な事情と経緯があるのだが、つまるところ原因は仕事と金と女。

 事態がこじれたあげく、迷宮都市から夜逃げする破目となってしまう。

 そしてふらふらと流れ着いたのが、オッパケラードという辺境の田舎村。

 レイクは森の手前にある古い民家を借りて、一人暮らしを始めた。


 オッパケラードは山と湖、そして森に囲まれた風光明媚な村である。

 しかしレイクは、文明的な迷宮都市で生まれ育った都会っ子だ。

 村の自慢は美味しい空気と水という長閑な環境に、退屈しきっていた。


 平穏きわまりないオッパケラード村だが、唯一危険といえる場所がある。

 村外れに、ダンジョンがあるのだ。

 地下四層までしかない下位迷宮で、中枢部もとっくに破壊済み。

 モンスターが地上に溢れ出す心配もなく、いつか自然消滅する運命にある。

 しかし迷宮内では数は少ないが、いまだモンスターが湧き続けていた。

 これを倒せば素材を採取できるが、さすがに村人では手に余る。


 そこでレイクが村で唯一の迷宮採取人として、素材採取を請け負っていた。


 ◆


 その日レイクは、道端で会ったサマンサお婆さんから採取依頼を請けた。

 孫娘の服を繕うのに、丈夫な糸が欲しいとのこと。


「あの子はお転婆で、しょっちゅう服が破けてねえ」

 嘆かわしそうにため息を吐く、サマンサお婆さん。

「ちゃんと嫁ぎ先が見つかるのか心配だよ。この間も――――」

 サマンサお婆さんの話は長い。というか、村の住民は全般的に話が長い。

 (せわ)しない都会で育ったレイクには、ちょっとした苦行である。

「だからどうだい? あんた、あの子を貰ってくれないかね?」

「メアリちゃん、まだ一〇歳でしょう?」

 なに言ってんだ、この人は。レイクは内心で呆れ返る。

「あと三年もすりゃ、嫁げるようになるさね」

 サマンサお婆さんは、悪びれずにうそぶく。

 相手にしていられないと、レイクは逃げ出した。


 彼は自宅に戻って準備を整え、村外れのダンジョンに向かった。

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