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津軽藩起始 六羽川編 (1578-1580)  作者: かんから
第十章 南部軍、津軽氏を従属させる 天正七年(1579)旧暦七月十一日夜
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逃亡 第四話

 滝本率いる敗走軍は()(こく)(深夜零時)あたりだろうか、津軽討伐の戦が始まって場所である津刈(つかり)砦((いかり)(がせき))まで引き返した。そこから矢立峠やたてとおげを越えれば、安東方である浅利(あさり)家の大館(おおだて)扇田(おうぎだ)城へ戻ることができる。そこには安東(あんどう)(ちか)(すえ)本人が出陣しようと準備しているはずだ。しかもこのとき安東本軍の先鋒五百兵が津刈砦に陣取っており、いよいよ安東本軍が来るのだなという空気を感じることができる。彼らに話を聞くとすでに相当遅い時間であるので、山の上と狭い平地の数少ない家屋を借り受けて多くの兵らを来る戦に向けて休ませているらしい。滝本は先鋒の大将である大高(おおたか)へ細かに事情を話し、大高の方でもすでに逃げていた者から聞いていたようで、呑み込みがとても早かった。そして滝本へ淡々と伝えたのだ。



「わかり申した。あなたの率いてきた兵らを後ろへ下がらせましょう。」



 滝本は安心して、“よろしく頼む”と応え、先頭で馬に(またが)り、矢立(やたて)(とうげ)の方へ進もうとした。すると大高は滝本一人だけ止めて、後ろから付き従ってきた者らを次々と通した。滝本は……この事態を理解していない。理解しようにもなぜ大高がこのようなことをするのかわからないし、いくら考えてもわかろうはずがない。すると大高は察したのか滝本にざわざわ耳元でこう言うのだ。手で違う方を示しながら。


「あちらならばお通り下さい。」


 南部領へと繋がる坂梨(さかなし)(とうげ)。……大高は何を申しているのだ。


「何もかも……わかり切ったことではありませぬか。あなたは安東領への入境を許されていない。これは殿御とのおん自らの命令でございますし、以後は安東と関わらないでいただきたい。」



 何を言っているかわからない。滝本の頭は真っ白で……なぜこんなにも貴重な人材を要らぬと申されたのか。そして大高は見かねてため息つき、最後に捨て台詞(ぜりふ)


「頭でわからぬのなら心に手をあてて、これまでの行いを思い出してくだされ。」


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