逃亡 第一話 +三々目内館絵図
同じころ……滝本重行は岩舘で首を検めようとしていた。大将の比山に為信の首を討ち取ったと報告したものの、自らの目で確かめたわけではなかった。甲冑から見ると確実に為信であろうし、まだ敵軍と戦っている最中であったのでそんな暇はなかった。そして為信を守っていた将兵を全て殺しきったので……誰が為信に扮していてもいいように、すべての兵を逃がさなかった。二人か三人ほどを思わず逃してしまったと後から聞いたが……ふん、もし奴らに為信がいたら私は物凄く不運だということ。
夕日が今にも岩木山の裏に隠れようとする。空と山の境目より光が線を放ち、滝本は思わずその様を見惚れてしまった。ずっとその先を、何もかも忘れて眺めていたい……いや、己にはそんな刻はない。いずれまた見ることはできるのだから、今わざわざ眺めなくても済むこと……。そうして目線を下に落とすと、足元に茂るサイカチが目に入った。実をつけ始めているが……まだそんなに大きくはない。曲がりくねった形こそわかれど、中身は未だ膨らむ前だ。そんなに目立つわけではないのに……その緑色は他の雑草の中で際立って輝いても見えた。サイカチならばよく武士が好む植物である。“再勝”の言葉に通じるらしく、縁起がとてもよろしい。
そして下から目と同じ高さへと視線を戻す。目の前に運ばれてきた木の箱は、台の上に静かにおかれた。この中に首が入っているそうだが……周りに集まった兵らは滝本が開けるのを待ち望んでいる。誰もが静かにその瞬間を待った……。黄色い光が眩い中、滝本自らの手で蓋ははずされた……供回りの者に蓋は預け、滝本は二つの手で、首と胴体がくっついていたところを掴む。……肉の中に指がめり込み、生身の感触というものは否応なく伝わった。そして目線と同じ高さに首は上げられた。
これは誰の首か。
家来が言う。
「はい。津軽右京亮為信の首です。」
いやいや……
…………
謀られた。
滝本は……乱暴にも首をその場に投げ捨てる。
三々目内館
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2018/02/15 挿絵に関して
出典元:特集 津軽古城址
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