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津軽藩起始 六羽川編 (1578-1580)  作者: かんから
第九章 田中吉祥落命。終戦 天正七年(1579)旧暦七月十一日夕
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逆襲 第四話

 津軽平野は何も障壁のないただただ広い土地である。所々に川や林はあろうが、眺めれば遥か遠くまで透き通る。山に登るのには劣るが、人が集団を作ってこちらに向かって来ようものならほどなくわかるだろう。相手に身を隠す意図がない限り、何もかも筒抜けなのである。それが秋田からきた将兵らにとって途轍(とてつ)もなく新鮮で、山が多い(ところ)で生きてきた者にとっては、遠目に何か動くものが見えるというだけで面白いのだ。


 なので水木(みずき)の兵と思われる集団がこちらに近づいてきたことが分かった時も……互いにあちらを指さして、次第に大きくなる姿を臨んだのだ。それも六羽(ろくわ)(かわ)で水浴びをしたままで。近づいた相手は鎧兜で身をぎっしりと固めおり、何やら雰囲気が違うようで物々しさを感じた。いわば敗軍の兵団というのはこのようなものなのだろうか……。さぞ疲れ果てているようで、ゆっくりとした足取りでこちらを目指してくる。百、二百、三百……人の身体が次第に大きく映り、大将の比山(ひやま)は前に立ってその(さま)を見据えるのだ。さすがに彼はころもこそ着ていたが、鎧はすでに身に着けていない。その太めの身体には少々きついものがあり、汗を拭くための手ぬぐいを横に持ち、さあ出迎えようと数人と進み出でたときには、さすがに失礼だろうとその手ぬぐいを後ろの者へと渡した。



 だが、かの集団は気を緩める様子はない。それぞれの表情が分かるまでに近づいたのだが、これから仲間になるような雰囲気ではないし……彼らは一斉に刀を抜く。おのれらに対し斬りこんだのだ。

 比山は慌てて“敵襲だ”と叫んだものの、誰もすぐに応えようとする者はいなかった。その場には確実に千以上の兵らが(たむろ)していたはずだが、武器甲冑などは川岸に捨て置かれたままで、だれもこれから戦があろうと考えていない。騒ぐ声ばかりでまともな者はおらず。大きな戦いがあった後で、その同じ日に再び大きな戦いがあるなど……誰が考えるか。しかも敵は散々負けて大将も死んだのに。


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