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津軽藩起始 六羽川編 (1578-1580)  作者: かんから
第一章 北畠残党、秋田へ向かう 天正六年(1578)晩秋
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限界 第三話



 北畠(きたばたけ)(あき)(うじ)、浪岡衆の悲惨さを十分に知っている。土地を失った流浪の民、故に何も発言力を持たない。他の何者かによってのみ役割を与えられ、それも一方的にのみだ。それがこのたびの調練、滝本による仕打ちである。




 ある者は顕氏へ言った。


「御所号が油川の仮殿からいなくなれば、南部氏は浪岡を奪還しうる大義名分を失います。そうなれば滝本も黙るしかない。ここに居残る者らも安心して暮らせるのでは……。」



 ……そのような考え方も一理ある。私がいなくなれば名分は消えうせる……かもしれない。ただし浪岡衆は流浪の民に変わりなく、どのような困難が待ち受けるかはわからぬ。

 だが逃げて戦わぬというのは、先祖に申し訳立たぬ。祖父の(あき)(のり)、父の(あき)(ただ)、もちろん御所号だった(あき)(むら)。他にも混乱の中に亡くなっていった者ら。南部勢と共に浪岡へ攻め上がり、御所を奪還してこそ本懐が遂げられよう。



  苦渋の選択を迫られる。







「……商家を動かせるものは、あるにはある。」


 その場にいるすべての者の目線が、顕氏の胸元に注がれた。……それは小さめの袋から取り出された、眩い限りの金印だった。誰もがその美しい様に見とれ、その輝くさまは嘘をつかない。


 顕氏は苦い顔を保ちつつ、話を続けた。


「父から託されたものだったが……もちろん価値はあろう。」




 ……横内(よこうち)の長小屋に集う浪岡衆、顕氏の周りに円を囲むように集まり、無言ながら決断を促す。



 顕氏、彼は亡命政権の象徴だ。その身は己一人のものではなく、ここにて侍る老若男女全員のものである。こうなると、“己の意志”に関係なく、我が身を皆に任せるしかない。




 そして……山から吹き降ろす風が一段と寒くなった頃、ちらちらと小雪も舞い始める。(こよみ)は秋だろうが、北国の冬の始まりは早い。……暗闇の中、小舟の数隻が静かに川を(のぼ)ってくる。


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