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津軽藩起始 六羽川編 (1578-1580)  作者: かんから
第九章 田中吉祥落命。終戦 天正七年(1579)旧暦七月十一日夕
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逆襲 第一話


 津軽衆は残る力を振り絞り、腹の奥底から声を張り上げた。その寂れた小屋で声が上がると、外にいる兵らもここぞとばかりに呼応(こおう)する。あたかも恐ろしい地響きのようであったが、何やら寂しげな感触も含んでいる。為信は……神輿として身体(からだ)を預けるだけ。思う存分すればよろしいし、気のすむようにさせるのが己の役目……。かつて何を言われようが、その場の感情に乗っかってしまうのが人の宿命。田中の想いを果たせないのが唯一の心残りだ。



 ここであろうことか傍付(そばつき)八木橋(やぎはし)は盛り上がる場をめにかかった。何事かと皆々八木橋の方へ目を移し、なぜ空気を読まぬ真似をするのかと(いぶか)しむ。それでも……八木橋は勇気を振り絞り、為信に進言するのだ。


「このままでは無駄死むだじにでございます。」




 一斉に者共は怒号を上げ、話を聞かぬまでもないと彼を罵り始めた。しかし八木橋は意志を曲げるそぶり一切なく、どんな罵声を浴びせられようとも続きを語ろうとした。一向に静まる気配がない中……為信にも思うところがあったので周りを落ち着かせ、改めて八木橋に口を開かせるのだ。


「私の傍付としての役目……いまだ果たせておりませぬ。どうせ攻め込むならば……試してみたい儀がございます。どうかお受けくださいませ。」



 八木橋の目に曇りはなかった。それは真剣な眼差(まなざ)しで、それは沼田のすべてを見知っているかのような余裕の(さま)とは異なり、見えている物はまったく違うだろうし視野は狭いかもしれない。それでも必死に考え尽くして出した最高の結論らしかった。


 為信は問う。


「その策は、どれほどまでに使えそうか。」



 八木橋はあろうことか首を振る。しかし強い眼光は変わらない。




「わかりませぬ。望みはほぼないかも知れませぬが……試す価値はあります。」


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