逆襲 第一話
津軽衆は残る力を振り絞り、腹の奥底から声を張り上げた。その寂れた小屋で声が上がると、外にいる兵らもここぞとばかりに呼応する。あたかも恐ろしい地響きのようであったが、何やら寂しげな感触も含んでいる。為信は……神輿として身体を預けるだけ。思う存分すればよろしいし、気のすむようにさせるのが己の役目……。かつて何を言われようが、その場の感情に乗っかってしまうのが人の宿命。田中の想いを果たせないのが唯一の心残りだ。
ここであろうことか傍付の八木橋は盛り上がる場を止めにかかった。何事かと皆々八木橋の方へ目を移し、なぜ空気を読まぬ真似をするのかと訝しむ。それでも……八木橋は勇気を振り絞り、為信に進言するのだ。
「このままでは無駄死でございます。」
一斉に者共は怒号を上げ、話を聞かぬまでもないと彼を罵り始めた。しかし八木橋は意志を曲げるそぶり一切なく、どんな罵声を浴びせられようとも続きを語ろうとした。一向に静まる気配がない中……為信にも思うところがあったので周りを落ち着かせ、改めて八木橋に口を開かせるのだ。
「私の傍付としての役目……いまだ果たせておりませぬ。どうせ攻め込むならば……試してみたい儀がございます。どうかお受けくださいませ。」
八木橋の目に曇りはなかった。それは真剣な眼差しで、それは沼田のすべてを見知っているかのような余裕の様とは異なり、見えている物はまったく違うだろうし視野は狭いかもしれない。それでも必死に考え尽くして出した最高の結論らしかった。
為信は問う。
「その策は、どれほどまでに使えそうか。」
八木橋はあろうことか首を振る。しかし強い眼光は変わらない。
「わかりませぬ。望みはほぼないかも知れませぬが……試す価値はあります。」




