身代わり 第四話
為信はわずかな供回りを連れて……おそらく大坊という辺りだろうか、堀越の本営に遠ざかってもいなければ一気に近づいたわけでもない。ひたすら安東の兵らより逃げることを考えていたらそのようなことになってしまった。他の津軽の兵らも散り散りとなり、六羽川沿いで戦っていたはずの乳井や小笠原がどうなったかも全くわからない。そこで傍付の八木橋は目の前に放光寺という荒れ果てた場所があったのでそこへ為信に入っていただき、生き残った兵らを廻りに遣わして様子を見ることにした。時間は昼を過ぎ、未の刻辺りだろうか……。
するとある者が偶然にも小笠原を見つけた。彼も為信を探していたらしく、堀越には戻らずに生き残った兵らをまとめつつも、岩舘の周辺を密かに巡っていたらしい。しばらくして乳井も生きていたことが分かり、半刻後には彼も為信の元へ合流した。
小笠原は気分が悪いのか……決して語りだそうとはしない。もともと話が好きな性質ではないのだが、今日は特に際立っていた。ならばと為信は乳井に問うが……首を振り、“しばらく待っていただきたい”と小屋の外へ出て行ってしまった。仕方ないので為信は彼らの近習に問うてみた。すると……
“安東軍と津軽軍は六羽川の東岸にて争い、小笠原隊と乳井隊はよく戦いました。しかし中央を占めていた水木御所の兵らは呆気なく崩され、御所号で在らせられた水木利顕様は討ち死に。あとはなすすべなく、我らも同じくして壊滅。六羽川を渡られ、殿のいるであろう岩舘を目指して進んだ模様です”
……六羽川自体はたいそうな川ではなく深さは1mほど幅は3mぐらいなので、千の兵の誰もが容易く渡れる。全軍を持って目指されても……すでに本陣は籠らずに潜んでいた敵にやられてしまっているが。
ああ、負けるべくして負けたのだ。伏兵がいなくても敗れる運命は変わらなかった。