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津軽藩起始 六羽川編 (1578-1580)  作者: かんから
第九章 田中吉祥落命。終戦 天正七年(1579)旧暦七月十一日夕
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身代わり 第三話

 田中(たなか)吉祥(よしゆき)は叫んだ。もう二度と叫ぶことは無いので、ありったけの力を込めて腹の奥底より声をひねり出した。敵味方誰もが驚き、その声は遠く逃げる為信にも聞こえたであろう。


 「津軽(つがる)右京(うきょう)(のすけ)(ため)(のぶ)である。まだワシは諦めておらぬ。お前らすべて切り捨てて、この戦を勝ちにしてくれるわ。」




 安東の兵らはこぞって田中を指さし、我先にと為信の首を獲らんと槍や刀で勝負を挑む。……彼は義勇の士であるだけではなく、これまで津軽家の誰よりも努力を積み重ねてきた。天才であるわけではない。かといって小笠原のように強いわけでもない。どこにでもいそうな凡庸(ぼんよう)な人間であったが、必死に役目を全うするために努力を欠かさなかった。


 その成果は死ぬ間際で大いに役に立つ……殿を逃がすため、そして少しでも長い時間を……数えるだけでもいい。それだけ殿が遠くへ逃げる(いとま)を稼げるのだから。


 いつしか鎧の真上より槍が刺さっていた。腹の中へ向けてその長い一本が突き刺さっていた。……痛くはない。鎧の方も傷を受けすぎて弱くなっていたのだろう。そしてさらにもう一本を脇腹より、さらに首元に刃が……痛くはない。






 次に安東の兵らは勝鬨をあげた。



 “為信を討ち果たしたぞ”


 大いに声を張り上げ、途轍もない歓喜に浸った。その兵らの中で津軽方より奪い取った馬に跨るのは滝本(たきもと)重行(しげゆき)。彼は晴れ渡る空を見上げ、腕を遥か上へと伸ばして……太陽へ顔を向けた。大光寺(だいこうじ)城を奪われて以降、なんとか憎き為信を倒そうと奮闘してきた日々。様々な軋轢を生んだが……主家の南部氏より離れてまでみた夢。今こそ果たすことができた。……(ほほ)(つた)い、土へ涙が落ち行く。絶えることのない美しさ、涙は太陽に照らされてたいそう輝かしい。それは津軽の大地も同じであり、これから自らの手で新たなる歴史が築かれていくのだ。


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