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津軽藩起始 六羽川編 (1578-1580)  作者: かんから
第九章 田中吉祥落命。終戦 天正七年(1579)旧暦七月十一日夕
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身代わり 第二話

 これでは(かな)わぬと田中は……悲惨なる決意を固めた。ドゥドゥと為信が(つか)まる馬をなんとか(なだ)め、呆然としている為信を無理やり荒々しく下ろした。そして一家来の分際で……顔面を殴った。




 ……意識が飛んでいた為信、まだどこかへ旅立ったわけではなかった。全く聞こえなかった辺りの音が一気に頭の中へなだれ込んできて、思わず“(うるさ)い”と叫んでしまう。鬼の形相だったろうが……そんな為信の姿を見ながら田中はお構いなしに、一方的に為信の甲冑を結んでいた紐をほどき始めた。……今も周りの者が必死に戦っている、抗っている。逃げるには前へ後ろへも進むのではない。横の田んぼの畦道(あぜみち)へ、怖くなって逃げている兵らのように失せるしかない。


「殿、具足を借り受けまする。」



 為信の理解はやっとで追いついた。我らは負けたのだ。どういう訳か敗れ去ってしまったのだ。だからこそ逃げ粘らなぬ。そういえば昔も……滝本にしてやられた。そういえば先ほど奴の姿を見たような気もする。そのように思いながら為信は田中が具足を取り去らいやすいように格好をつけ、なすが儘に身を任せてしまう。そして問うのだ。



“いいのか”



“殿は逃げ帰って、再起を図ってください”




 いやいや……お前は冬に妻を娶ったばかりだろうに、子供だって身ごもっている。そんなことをさせてなるものか。


 為信は田中の腕をつかみ、頭を下にしつつも懸命に横に振った。すると横から八木橋(やぎはし)が口を挟んだ。



「従ってください。」


 お前も生きていたか……。すでに田中が全てを取り去ってしまったので、後は八木橋に連れられて逃げるだけ……横の畦道へ、多くの兵がまだ戦っている。しかしすべてが死んでしまえば……こちらへ目が向く。今しかないのだ。


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