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津軽藩起始 六羽川編 (1578-1580)  作者: かんから
第九章 田中吉祥落命。終戦 天正七年(1579)旧暦七月十一日夕
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身代わり 第一話

 同じ頃……為信のいた津軽本軍も滝本(たきもと)重行(しげゆき)率いる百の兵らによって襲われていた。五日もの間……滝本は兵を潜め、静かにその機会を狙っていた。福王寺や乳井茶臼館に籠った安東軍千五百もの大軍を(おとり)にして。



 所々にあった松林や竹藪の陰より銃砲は放たれ、突如として湧いた敵軍に対し津軽の兵らは大混乱に陥り、特に為信本人も物見と言って遠くへ離れてしまっていたので……あたふたするしかない。武勇に優れたものは前線の部隊に出してしまっているし、本軍には初陣の者もいれば、八木橋などの頭脳を持って仕えるどちらかというと文系の集まりである。束ねる者は……田中ぐらいしかいない。彼は一軍の指揮をしたことは無いものの、戦の要領というものは心得ている。“静まれ、者共”と怒号を発し、普段の落ち着いた様から一変して周りを驚かせた。そして無事だった者らをまとめ上げ、急ぎ為信の向かったであろう道を走るのだ。



 ……あっという間に三百は半分に、刀を持って争わねばならぬのに思わず放してしまい斬り殺される不慣れな者は論外だが、前や斜めより数人が同じくして襲ってこられては戦さを数度経験している者だとしてもなすすべない。藪の向こうより隙間をついて鉄砲は撃たれるし、木などによじ登り頭上よりも矢が放たれる。逃げようと周りに広がっている田んぼへ身を落とし、せっかく稲が青々と育っていたところであるのにその場で激しく動くので、その色はたちまち鮮やかな緑から泥の濃い黒で荒らされていく。いつしか鎧の帯の色も、人の肌の色も黒く染められ、そのうち赤い色も混じり、体をムカデやら名もよくわからない虫らが()う。


 田中が前へ進むと……向こうより馬に必死に(つか)まっている為信が見えた。あれは自分で馬を走らせているのではない。馬が自らの意志で逃げてきたにすぎぬ。供回りも後を追ってこちらへ走ってくる。さらに向こうからは……敵兵が。


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