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津軽藩起始 六羽川編 (1578-1580)  作者: かんから
第八章 津軽為信、死に窺う 天正七年(1579)旧暦七月十一日昼
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狂乱 第五話


 為信と傍付(そばつき)八木橋(やぎはし)ら十人ほどは後ろにいる本軍より先に進み、ひたすら前へ前へと六羽(ろくわ)(かわ)の見える方へ駒を動かした。暑いながらも朗らかな、大変喜ばしい日である。乳井と小笠原ならば体力の消耗した安東軍を負かすに違いなく、その隙に裏手より森岡が拠点へ攻め入って、安東軍は降伏せざるを得なくなる。もしくは呆気なく討ち死にするか。


 とにかく、すでに勝敗は見えた。後学のためにとお供の中には水木(みずき)の陣より借り受けた若武者もおり、様々なことを教え込みながら駒を隣に合わせながら砂利道を進んでいた。小さな小石や砂が馬の(ひづめ)にあたり、さも軽やかな音を立てていた。遠くより大いに争う人の声が聞こえこそすれ、こちらに何か影響をもたらすわけではない。……すでに結果は見えていること。




 ふと気づくと、周りには枝豆を育てている畑が広がっていた。青々として、小鳥が人のるより勝手に食いちぎっている。その横をトンボが横切り、ああ水のある処が近いのだなと感じさせた。ということは六羽川もすでに近い。


 そんなことを考えながら為信が横を向くと、馬の上に跨っているはずの人がいなかった。次にはドサッと大きな鈍い音が(もたら)され、後ろからも同じような音が聞こえた。……洪水の時、土砂降りの中、激しく地面を大粒の雨が叩きつけるかのような激しい響き……耳の中が物凄く高い声で痛くなり、いつしか周りの音が全てふさがれてしまった。横に目を向け続けると、どこかの兵らが間近まじかに迫り、我らの方へ迫ってくる。枝豆の鬱蒼うっそうと茂った畑の中より槍を持った兵ら、いまだ奥には鉄砲を持った兵らがこちらへと狙いを澄ましている。


 すると為信よりも先に馬は前足を高く上げ、元来た方へ彼を連れて逃げ出そうとする。他の供回りも為信の後を追い、……この時にやっとで己が襲われていることを理解できた。


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