限界 第二話
先が見えぬ。……ともすれ、何も手段を討つことができぬ。誰もが静まり返り、ひとまずは明日のために早く寝ようではないかとござを被ろうとした。そんな時……
”逃げよう”
その一言が、小さい声ながらもしっかりと皆の耳に届いた。
「……どこへ。」
「……秋田へ。石堂様があちらにいらっしゃる。」
一筋の光明が見えた。しかしながら誰もが理解していた、その危険さを。
「秋田といえば安東。南部の宿敵ぞ。」
「そんなの言っている場合か。我らが死んでしまうぞ。」
……自然と二つの考えに分かれた。地獄が続こうが諦めてここに留まろうと考える者も大勢いる。かつて管領の水谷利実が津軽氏に下ろうとして油川を出た際に、容赦なく滝本に殺されている。このたびも同じ繰り返しに終わるだろうと。秋田へ行くのは敵方に寝返るのと同じ……。それにどうやって。するとある者が言った。
「……油川には浪岡と馴染みの商家が幾人かある。海路で外ヶ浜を脱出する。」
山手の茂みに隠れて荒川に出さえすれば、そちらに小舟を寄せてもらって一気に下る。河口には蜆貝村という集落があり、そちらの湊に大船を待機。皆々乗り込み、秋田へと向かう寸法だ。ただし浪岡と親しい商家といっても今つながりがあるわけではないし、ばれる危険を背負ってまで尽くしてくれるところがあるかどうか。さらに逃げるということは、滝本はおろか奥瀬氏も裏切ることになる。
……話こそ盛り上がったが御所号の顕氏にも相談しなければならぬし、なんとなく馬鹿げた夢想めいた話のように思われたのでこの話はその場で終わった。しかし誰ともなく話したいという気に襲われ、結局は数日後に顕氏へ持ちかけてしまうのである。