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津軽藩起始 六羽川編 (1578-1580)  作者: かんから
第八章 津軽為信、死に窺う 天正七年(1579)旧暦七月十一日昼
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狂乱 第三話


 ただひたすら本軍の到着を待つべきか、それともまだ体力のあるうちに攻め入って敵軍の向こうにある六羽(ろくわ)(かわ)の水を求めるか……。まだ雌雄を決する必要はない。安東本軍が来さえすれば敵の二倍の兵力であるので確実に勝てる。しかし……いつやってくるのか。大将の比山(ひやま)、目付の浅利(あさり)にわかるはずがない。あるのは籠るのを勧めた滝本(たきもと)への恨み言。その張本人はどこへ行ったかわからず、ある意味で彼を責め立てるのは籠っている兵同士で仲間割れをしないための方策でもあった。



 だが次第にそんな元気も失われつつある……一方で北畠(きたばたけ)顕則あきのり石堂いしどうは、実のところは本軍がやってこないことは知っている。しかし攻め入ったら水木(みずき)御所(ごしょ)の軍勢とぶつかってしまう。そんなジレンマと戦っている。ならば残された道は降伏か……。とてもじゃないが言い出せぬ。仮に言い出してみろ……なぜ来ないことを教えてくれなかったと窮地に立たされ、あるいは殺されてしまうかもしれぬ。



 ……籠る兵らは、遠くを見つめる。その先には六羽川ろくはねがわの清流。そこへ行くためには津軽軍を退かさねばならぬ。もちろん相当な時間が経ったので、我らが攻めてきてもいいように対策を済ませているだろう。だがよくよく考えてみると……兵力は互角か、もしくは我らの方が勝っている。


 次第に兵らの方から“攻め込むべき”との声が高まった。そうでなければ……逆らってでも攻め入るぞと。次々と兵らは持ち場を離れて、大将の比山がいる福王寺の仏殿へと押し掛けた。今こそ戦うべきであり、もうこれを逃せば機会は巡ってこぬ。明日になれば我らは死に体も同然であり、きっと相手も“どうせ攻めてこまい”と油断しているに違いない……。兵らの総意である。千五百もの兵らが同じことを考えている。




 激しく襲う喉の渇きは戦略的な話以上に重要であり、体からもたらされた大いなる生理的欲求は自然と……全ての者らの考えを一つにした。

 


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