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津軽藩起始 六羽川編 (1578-1580)  作者: かんから
第八章 津軽為信、死に窺う 天正七年(1579)旧暦七月十一日昼
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狂乱 第二話

 (ふく)王寺(おうじ)乳井(にゅうい)(ちゃ)臼館(うすかん)に籠る安東の兵ら、異変に気付き始めたのは日が傾き始めて以降だった。井戸の水をすくい取ろうとすると、何やら泥が混ざっている。時間が経つにつれ濁りの度合いが強くなり、果ては桶がとてつもなく重くなり引き上げることができないほどだった。それもそのはずで、“井戸”とはいうもののその地中のみなもとからくみ取っているわけではなく、要は山深くの源から水を引き入れているだけの代物だった。それを津軽方が徹底的に破壊してしまったので……水が流れてこない。井戸の水は空っぽになり……さすがに安東軍も事態を把握した。突然こうなるのはおかしいので、敵軍が何か仕掛けたに違いないと。




 “水が手に入らぬ……”




 籠る安東軍は焦った。豊富なる兵糧こそあれ、水がなければ人は生きていけぬ。それにこの暑さである。空を見ると星が輝き、雲一つとてない。綺麗な情景なのに……天が恨めしい。千五百も山の中腹に連なる拠点に籠っているのに、寺の境内にある観賞用の池ぐらいで耐えられるはずがない。……その池でさえ次の日にはただの土のくぼみと化した。


 安東軍は裏に広がる大館山へ兵こそ送ったが、すでに敵方は退いている。水源であろう場所も偶然に見つけたが……すぐに何とかなる代物(しろもの)ではなかった。



 はて、人は水なしで何日耐えられるのだろう。安東(あんどう)(ちか)(すえ)様の率いる本軍が到着するまで籠るつもりだったのに……一部の将兵は知っていた、彼らがこないことを。そこでひそかに山を抜け出して津軽方の水木(みずき)の陣へすぐに裏切るように催促したが、あちらはあちらの事情がある。首を軽々しく振れず、少しばかりの水筒を背負わせて送り返すだけしかできない。




 次の日も、さらに次の日も炎天下が続いた。腹こそ膨れるが、喉の渇きは果てしなく。兵らは建物の中や木陰に隠れて、一切体を動かさぬ。鎧兜は脱ぎ捨て……自らの汗を舌で舐める。……塩の味がする。


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