狂乱 第一話 +乳井茶臼館絵図
「森岡信元殿率いる軍勢は、つい先ほど水の手を断つことに成功いたしました。」
伝令はあたかも勝ちを確信したかのように本陣にいる為信や八木橋に話した。……安東軍は拠点こそ奪ったが、寺や櫓の隅々まで知っているわけではない。一度は攻め手側として山城としての欠点を把握しただろうが、所詮は初めて籠る拠点なので慣れるには時間がかかる。
ならばこちらより福王寺へ攻め入るか。いや……沖館や高畠から退いたとはいえ、それはあくまで脇腹を取られるのが嫌だったまでのこと。山には確実に千を超える兵らが籠っているし、士気高く、まともに戦えばこちらが負ける。
そこでこの暑い最中である。寺や櫓の方へ引かれている水の手を断てば、のどの渇きが彼らを襲う。人間はどんなに強がっても、水と食べ物がなければ生きていけぬ。そして……弱まったところを攻撃する。
水源を探すのは簡単だった。寺の主は津軽家二柱の乳井建清であるし、その家来衆らも水の出どころを知っている。逆に安東軍は水源の在処がどこかなど知る由がなく、場所がわからないので兵を置いて守ろうにもできぬわけだ。拠点の裏に広がる大館山へ密かに分け入り、たいそう虫に刺されてむず痒いのを我慢しつつ……藪の向こうに岩の狭間から湧き出る源があった。その先にはある程度大きい貯水池があり、そこから福王寺や乳井茶臼館へと水を流している。
それを……ぶち壊す。木の板で作られた境目や、竹筒などを思うがままに割る、壊す。これまでの仕返しだといわんばかりに滅茶苦茶にしつくす。池には周りの土をいれて水を濁らせる。……あっという間に泥の沼の如く、足を入れればそのまま沈んでいくような、そのあたりだけが蝿や虻がブンブン飛び交い……すでに水溜めの役割は失われた。それも完全に。相当な時間を費やさねば……元には戻らぬ。
乳井茶臼館
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2018/02/15 挿絵に関して
出典元:特集 津軽古城址
http://www.town.ajigasawa.lg.jp/mitsunobu/castle.html
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