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津軽藩起始 六羽川編 (1578-1580)  作者: かんから
第八章 津軽為信、死に窺う 天正七年(1579)旧暦七月十一日昼
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不制于天地人 第五話

 二刻ほど経ち、昼下がりの未の刻(午後二時ごろ)すぎ。水木の陣より三人の若武者が岩舘の本陣に参上した。その中には当然だが多田玄蕃(ただげんば)もいる。……この者らが事情を知るかどうかはわからないが、とりあえず顔は明るいようだし表立って困惑している様子ではない。しかし心の奥で何を考えているかは知れず、決して油断はできぬ……。もし水木が裏切ったとしたらこの者らを(あや)めなければならぬ。

 為信は彼らに対し声をかけた。


「よくぞ参られた。お前たちは津軽の次代を担う者ら。と言っても私も若いので十歳ほどしか違わぬ。それでも初陣の者もいようから学ぶべきことも大いにあろうと思う。各々、(つと)めよ。」


 三人とも明るく応じ、不審なところは一切見当たらない。玄蕃の顔を他の者が見てみても、戸惑いといった感じは受けない。さては演じ切るつもりなのか……。




「うむ。武具の支度や戦さ話を知りたいならば、そこにいる田中に訊けばよい。兵糧の管理など細かい話は八木橋(やぎはし)に。彼らがいないときは……横で私の采配を見ていよ。人の動きを観察することで見えてくることもあろう。」


 ならばと次に話し出したのは田中だった。かつて窮地の仲間を助けに行った義勇の者として引き上げられた彼は、今や為信を守る者として近くを(はべ)ていた。八木橋とともに低い地位から破格の出世を果たした武将である。


「私なんぞは、ただひたすら殿をお守りするのみの役目。何も難しい事はないが……気付いたことがあればお教えしよう。」



 再び三人は明るく応え、田中が話しているのを真剣に聴いているようだ……。為信と八木橋は横で黙って様子を窺ってみる。……何も違和感はない。しばらくして三人が田中に連れられて本陣より去り、入れ違いに伝令が汗まみれで参上した。走ってきたせいもあり暑さとあいまって疲れこそあるが、……よい報せらしく、この者も明るい表情だった。


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