限界 第一話
皆々疲れ果て、笑う者は誰もいない。横内城の近くに作られた急ごしらえの長い小屋。それも粗雑なものなので、風の音がビュービューとうるさく、夜など途轍もなく身震いする。
……そのうち一人の婆が叫んだ。言葉に現せぬ、何物にも形容できぬ。
皆が近寄ってみると、藤蔵と呼ばれる年寄りが看病の甲斐なく息絶えている。灯で照らされた面は紫。……滝本の暴力を受けた後数日ずっとこのような状態であったが、とうとう死んでしまった。
ある若者が立った。
「……もう我慢ならぬ。滝本め……浪岡衆を何とするつもりだ。」
慌てて他の者が座らせにかかる。……どこで誰が聞いているかわからない。しかし続いて他の者も口を開きはじめた。
「奴は“浪岡を取り戻せ”とばかり言うが、為信憎しで動いているだけ。我らのことなど考えておらぬ。」
「そうだとも。それに浪岡を取り戻そうと戦おうとすれば、あちらにも見知った者は大勢おる。肉親で殺しあうことになる。」
他の者も“そうだそうだ”と同意する。そのまま為信に従った民もいれば、こうして逃げてきた者もいる。
「ならば……我らはどうする。」
一人がこういうと、急にその場は静まりかえる。……明確な答えを出せぬ。
「用があり油川に戻った御所号がおっしゃるには……奥瀬様は我らが事を考えているらしい。」
「というと?」
「……遠方に新しい土地をあてがい、浪岡衆をそちらへ移すと。外ヶ浜から離してしまえば、さすがに滝本が付いてくることはないだろうと。」
「それはあくまで……その場しのぎの発言では。何かしてくださるのであれば、奥瀬様が直接滝本に言えばいい。結局、奥瀬様は奴に何をすることもできぬ。」