流転 第三話
「津軽家中の話ではそうなっとる。乳井とかいう奴が出羽の羽黒山と交渉を持ち、酒田の大宝寺を動かした。大宝寺が北へ兵を向けたので安東愛季は警戒のため津軽には入らぬ。」
顕則と石堂にとっては想定外のことだ。椅子を立つまではしないが……目が点になるとはこういうことなのだろう。石堂は尾崎に問う。
「確かに我らの中でも……大宝寺の動きが怪しいので、少し間をおいてから安東本軍が参ると聞いていた。それもそろそろ着くのではないかという見込みで……我らも滝本も動いていた。」
尾崎は再びため息をついた。
「参らぬどころか、引き返すつもりぞ。大館扇田城にいるのもあと少しだ。」
少しだけ冷や汗が。小雨も降っているし夏なので蒸し暑い。肌に水滴の流れる感触がまじまじとわかる。
「とにかくだ。勝つ見込みがない限り水木御所としては、とてもじゃないが為信を裏切れぬ。」
言葉なんてでるはずがない。それでも何か返さねばならぬ……。彰則は固まったままなので、石堂が話すしかない。
「ならば……安東が負けるか。」
尾崎はというと“いや……”と言葉を濁しつつ、知っている限りのことをは伝える。
「もちろん水木御所が為信に付いたままだとしても、お前たちと刃を交えるつもりはない。もし安東が負けてもお前らが生きていれば……さすがに御家門ゆえ、殺されることはないだろう。我らもとりなしを願うつもりだ。」
二人は神妙にして聞き続ける。
「だが……我らの仲を勘付いているのか、それとも偶然なのか。沼田とかいう為信の傍付の進言で、ここ高畠館へ水木御所の軍勢が差し向けられることになった。……お前らはこの意味をどう捉える。」




