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津軽藩起始 六羽川編 (1578-1580)  作者: かんから
第七章 安東軍、乳井茶臼館に籠る 天正七年(1579)旧暦七月八日
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流転 第一話


 高畠(たかはた)館は安東軍、主に北畠勢の猛攻を受け陥落。三つもの郭に分かれているのである程度の防御性を有していたはずだが、北畠勢は手柄を立てようと必死によじ登り、矢がいくら飛んで来ようとお構いなしに堀を乗り越えたのだ。籠る将兵らは敵軍の成しように驚き慌てて、討死する前に逃げようと傷ついた仲間らを見捨ててトンずらしてしまう。……所詮は田畑の中にある平城。


 ……一軍の将である北畠(きたばたけ)顕則(あきのり)はいまだ残る敵兵をあやめる必要はないとし、武器を捨てれば命を助けようと考えた。我らはあくまで津軽制圧後の権力を滝本に奪われてなるものかと必死になっただけ。津軽に戻りさえすれば同じ民草であろうし、なによりこの者たちに恨みがあるわけではない……。もちろん家臣の石堂(いしどう)らも同じ考えだった。深い傷を負っている者も先が短いからと言って見捨てることをせず、十分に過ぎるほどの手当てを施す。小雨が降っていたので……館へと手負いを移させて、己らは外に天幕を張って次の計略を練るのだ。



「のう、石堂殿。沖館おきだてを攻めている滝本らから何か知らせはあるか。」


「いえ……いまだ落ちぬのでしょうな。我らの倍以上の兵を持ちながら、攻めあぐねているのでしょう。」



 淡々と会話するものの、心の中では両人共に少しだけ(おど)っている。滝本に“武者としての働きがない”と罵倒され、それが今の成果を見てみろ。これでさらに手柄を立てていけば、制圧後の権勢を握るのは我らぞ。加えてあのような目にあうのはもう御免ごめんだ。




 小鳥が館の軒下に入り、誰かを呼ぶようにさえずりをした。するとどこからともなくもう一羽が飛んでくる。そのさまをみて顕則は、これまで張っていただろう気が少しだけ和んだ。




”さて、昼餉でもとるか……”



 すると館の外より兵が一人の農夫を連れだってこちらへ歩いてくる。彼は雨避けの蓑を被り、下の着物もそんなよいものではないようだ。だが顔は……顔が。知っている。すぐにわかった。



 尾崎。





 尾崎喜蔵(おざききぞう)



 為信方に付いた、今は水木(みずき)御所(ごしょ)の枠組みに属する。……もしやあの話か。


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