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津軽藩起始 六羽川編 (1578-1580)  作者: かんから
第七章 安東軍、乳井茶臼館に籠る 天正七年(1579)旧暦七月八日
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戦さのやり方 第五話

 沖舘砦の兵らは柵を越えて安東軍へ夜襲を掛けた。初めこそうまくいき、数人は敵軍の大将にも迫ったらしい。……しかし所詮しょせんは多勢に無勢であった。これでは無理ぞと悟った阿部は途中で生き残った兵らを連れて砦へ逃げ帰ってしまった。果たして何人が生き残ったのだろうか。それに……(けな)されるのが目に見えている。女たちはどう思うか……。しかし想像とは裏腹に女たちは男どもを温かく迎え入れ、“よくぞ頑張りました”と声をかけてきた。哀しくもあり、嬉しくもあり……なんとも複雑な心境であるが、感傷に浸ってはいられない。逆に攻め寄せてくる安東軍を何とかして防がねばならない。女たちは言う。


「さあ、戦さのやり方というものをお教えください。」



 いやいや……お前たちはすでに知っているよ。このように我らをけしかけて、奮起させたのだから……。敵兵は堀を進み、土に手をかけてより登ろうとする。あちらでも同じように迫ってくる。矢こそ放つも数少ない兵の数であるので、堀を乗り越えてられて柵の目前に対峙されてしまった。大勢の敵兵らは……力ずくで柵をなぎ倒し、敵味方を隔てる障壁はなくなってしまう。ならば後は慌てて逃げるだけか……そうはならぬ。男はもちろん、女も必死になってあらがった。佐藤とかいう男の女房などは、一人で二十人もなぎ倒したらしい。刀のさばき方は知らぬので……相撲(すもう)が如く火事場の馬鹿力もさることながら、相手の間隙を見抜いては上手に体勢を崩していく。足だったり、腰に掲げる縄であったりと様々だが……それは見事としか言いようがない。他の女もそれに見習い、同じように敵へと立ち向かっていく。……そんな力があったのかと男どもは驚きそうなものだったが、生憎(あいにく)そのような暇はない。皆々必死だった。いつしか日が上がり……敵兵はまばらになっていた。そして、誰もいなくなった。



 誰かが言った。


 ”勝ったのか”




 いやわからぬ。しかし見てみろ、あそこにあったはずの安東の陣地はなくなっているぞ。


 ……では……勝鬨かちどきをあげるか。




 そんな気力、あろうはずがない。


 すべての者がその場に身を倒し、視線を上へと向けた。そのまま寝てしまう者もいたし、漠然と何も考えずに空を見続ける者もいた。




 津軽の援軍が沖舘砦に入ったのは、それより少ししてからである。



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