遠謀 第四話
誰かが“袋の鼠”と申せども、敵軍の方が兵数で上回り、かつ勢いもある。安東軍はいまや大鰐あたりの土民も併せ二千近く。対してこちらが自由に動かせる兵は千ほど。水木御所を併せても千五百なので、非常に心もとない。しかも三々目内館の多田秀綱は果たして降伏してしまったのか否か。動きが全くもって見えぬ。
為信は悩む。肝心なのは用兵であり、そこをしくじればすべて水泡に帰す。ひとまずは……
「森岡。お前は五百で森山松伝寺を奪還し、安東軍の退路を塞げ。余裕があれば宿河原に進み、平川と六羽川の要所を抑えろ。」
森岡は威勢よく返事し、甲冑の音を鳴らしながらその場を去った。次に……
「乳井。お主は大光寺城へ向かい、攻めたててくるだろう安東軍を迎え撃て。これぞ復讐の致すところだ。」
乳井はというと……“御意”と大きく返したものの、心の中でいろいろと渦巻いているようだ。なぜならば迎え撃つだけでなく、今すぐにでも福王寺を取り戻したい……それに攻めたてられている沖館や高畑も自らの所領でもある。
横でそれを至極冷静な目で見ていたのは沼田祐光。実はこの戦に関してある疑いを持っていたので……ここで恭しく前へ進み出て、為信に対して献策する。
「殿……迎え撃つだけでは敵軍の勢いをそぐことはできません。出口をふさぐのも結構。しかし他の手も加えると……さらに良策。」
為信は沼田の目を見て……何か裏がありそうな感じを受ける。周りの諸将が血気にはやる中、落ち着いて入れる数少ない一人である。……そういえば、こやつも純粋な津軽衆ではなかった。
「沖館には乳井殿が大光寺城へおつき遊ばしたらさっそく援けに向かって頂く。高畑へは、北畠には北畠を。水木の軍勢に当たらせましょう。」




