表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
津軽藩起始 六羽川編 (1578-1580)  作者: かんから
第一章 北畠残党、秋田へ向かう 天正六年(1578)晩秋
6/102

受難 第五話

 夕暮れ時だろうか、空は末恐ろしい音を立て、遠くの山より雷鳴が近づき始める。(たたみ)床机(しょうぎ)と呼ばれる椅子に座る諸将らは、中心に()す滝本の顔を窺い始める。隣にいる北畠(きたばたけ)(あき)(うじ)は滝本の方へ振り向きはしないものの、皆と想いは同じである。


 ……多くの者がソワソワするので、滝本もいい加減に気が付く。しかし彼はこういった。


「これしきことでやめては、強くなることはできぬ。……続けよ。」



 いつしか上空は黒一色で、雨が激しく降りたて始めた。音で誰が叫ぼうが聞こえぬ。さすがにやめるべきだと滝本以外の全員が考えたことだろう。しかし……


「予定通り、(とり)の刻(午後六時)が過ぎるまで続けさせよ。」



 滝本の元からの家来衆は思考回路が似ている者ばかりなので、だまって雨風を頭から受けている。屈強な武士(もののふ)の集まりだ。しかし浪岡衆はというと、何がうれしくてこのような仕打ちを受けねばならぬ。御所号の顕氏も口には出せぬものの、目をつむってひたすらこらえている。……烏帽子は次第に形を失い、みすぼらしい一物へと変わった。


 すると槍を持って走っている者らの一人がバタリと倒れた。遠くながらはっきりと皆の目にうつった。……滝本は横に繋がれていた駿馬(しゅんめ)(またが)り、血相を変えて彼の元へ駆ける。……相手は年寄りで、もう体力の限界だったようだ。再び立ち上がろうとはせず、横向きに体を地べたにつけたまま。だが滝本はこう(ののし)った。




「このように無様(ぶざま)なままでは浪岡を取り戻せぬぞ。気合をいれろ、気合を。」




 そう言うなり、鞘のついたままの(こし)(かたな)で相手の肩を叩いた。……年寄りはうなだれて、気を失う。もちろん他の浪岡衆も見ていた。しかし誰も彼を助けることはできない。……悪夢が過ぎ去るのを待つだけ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ