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津軽藩起始 六羽川編 (1578-1580)  作者: かんから
第六章 津軽為信、出陣する 天正七年(1579)旧暦七月七日
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遠謀 第一話




 安東軍はついに津軽平野へと躍り出た。勢いは衰えることを知らず、彼らに協力すべく制せられた場所の土民らも加わり始めて二千もの兵力になる……。一方でこちらはどうだ。人が足りず、一線を退いた年寄りなども呼んで、兵に仕立てている。ただただ申し訳なく、夜になるたびにひたすら経を(そらん)んじるほかあるまい。


 しかしこれだけは約束する。津軽が生き残るために、最大限努力しよう。決してその死を無駄にはしない。




 下の者らは“勝つ見込みなく、闇雲(やみくも)に抗っているだけだ”と思っているだろうし、そしてそれに賛同してしまう津軽衆つがるしゅうの精神。無意味に突っぱね、従えば助かるのに今更(いまさら)何を申すかと意見を聞き入れぬ頑固者を“じょっぱり”というし、津軽衆はそれを自認する。特に津軽家の家臣団はこれまで必死に戦ってきた。その中で勝ち得た物を、何もその有様(ありさま)を知らぬ者らに、労を要することなく奪われたくはない。こうして和平は突っぱねられた。己も裏工作したものの、どうも長く津軽に住まううちに染まったようで、ついには(いく)さになる道を選んでしまった。理性では十分にわかる。だが感情はそれを押しのけた。激情が(うごめ)き、どのような結末に至ろうが突き進みのみ……。

 すでに大館山(おおだてやま)山麓(さんろく)乳井(にゅうい)(ふく)王寺(おうじ)は落ち、敵軍は六羽(ろくわ)(かわ)を辿って北へ、それも津軽軍本営であるこの堀越(ほりこし)を無視して……。舐めている。奴らは舐めかかっている。……いやいや、まだ奴らは知らぬだけなのだから仕方ない。これも己の策謀なのだから……。




 堀越城に集結する千ほどの兵ら。この館の木窓から下で(たむろ)しているさまが一望できる。


 うすら笑み。場違いな表情をしてみる。心は安定しない。でも為信は諦めていなかった。他の将兵らは……諦めているだろう。あとは”じょっぱり”だけで戦うだけ。至る所が悲惨な最期でも……。





 しかし為信は津軽に染まったとはいえ、まだすべてが染まり切ったわけではなかった。できる限りの理性を保ち、生き残るための適切な手を講じていたのだ。

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