旧拠大光寺へ 第二話
滝本は地図の広げてある机をたたき、周りの諸将へ物申す。
「それでも安東様がやってくるのは変わりなかろう。」
大将の比山は滝本の剣幕に戸惑いながらも、“そうだな”と相槌をうった。滝本は続ける。
「我らは大鰐まで制した。羽黒館の将兵は逃げ、三々目内館の多田とは繋がっている。加えて津軽家中にも裏切る約束の者らもおる。安東本軍がやってこないからといって、攻めない理由にはならんぞ。」
場の空気は滝本一色になりかけた。いやいや、なってはならぬと慌てて目付役の浅利が口を挟む。
「しかし我らが総出で攻めあがったとしても、帰り道を塞がれては兵糧が届かなくなるぞ。」
なんだとと滝本は浅利を睨み、強い押しで言い放つ。
「そんなもの、まだ未だに戦っていない北畠殿に守ってもらえばよい。ここ宿河原にて居座れば、道が断たれることはなかろうて。そうであろう、北畠殿。」
北畠顕則は滝本の真ん前にて座っていたが、まともに口答えができず、目を合わせないように下に俯こうとする。ここで浅利が擁護する。
「その言い草はないだろう。北畠殿は多田をこちらにつかせた立役者。無駄な血を流さずしてほぼ大鰐地域を下したのだから。」
「戦ってこそ武士の本懐。なるほど、裏でコソコソやるのも私もやるだろう手だし立派な策謀だ。だがそれだけに頼って刀を持つことを忘れたから、浪岡北畠の凋落があった。それとも……次の戦は先陣を切るか。」
北畠家臣の石堂は恐る恐る顕則の顔を窺うが、体が少しだけ小刻みに、次第に揺れが大きくなり……彼には似合わないがたいそう甲高い声で言い返した。
「わかった。次の戦では先陣を切らせていただく。それでよいであろう、滝本殿。」




