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津軽藩起始 六羽川編 (1578-1580)  作者: かんから
第五章 開戦。安東軍侵攻 天正七年(1579)旧暦六月下旬
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虐殺 第四話

 傾斜のある丘陵を、下には土堀を、上には塀を四方に張り巡らしている。安東方の比山勢と浅利勢は攻めあぐね、無理やり登ろうにも傷つくだけであるし、次第に恐怖感が芽生えてきた。日も完全に沈み、代わりに月が東の高い山々より昇ってくる。(やじり)で心臓を射抜かれたもの多数おり、こちらから射かけようにも距離が足りず、さらには先日の大雨もあるので登るにも足場が悪い。



 一方で尾根筋より攻めていた滝本勢。土堀を境に敵へ矢を放ちあっていた兵らであったが、少し蔵舘ののら兵数が増えたかなとも思える。……ということは別方向から攻めている軍の勢いが弱まったから、こちらに兵を回しているのだなと考えた。事実それは的中していた。


 そこで今こそ調練の成果を示してやろうと滝本は、奥手より弓手の専門部隊を前へ回した。そして増えた者ら合わせて一網打尽にせよと。彼らは滝本の意を受け、懸命に励んできた屈強の武者らである。津軽の地に戻ろうと心に決め、為信に奪われた所領を取り戻さんとここにいる。これまでの成果を見せる時だ。手元で弓に矢を挟み、そのまま顔の横に上げ、前後に持ち手と弦を力いっぱい引き離し……敵兵めがけて放つのだ。ギリリと音が鳴り、限界だなと思った瞬間ならば誰よりも矢は高く飛ぶ。斜め45度の方向へ。土堀はもちろんのこと、敵の弓手の頭上を飛び越えて後ろで(たむろ)している奴らに刺さる。一番遠いもので40mも飛んだかもしれない。まさかこちらにも飛んでくるなんてと蔵舘の者は動揺し、前にいる弓手も後ろの慌てようが目に入ってしまったので、引く手を思わず休めてしまった。そのうち暗闇に混じって土堀より滝本の突入部隊が迫るのだ。急ぎ奴らに向けて弓というより刀を抜いて応戦する。



 ……勢いは滝本にあり、全軍が堀のその先へなだれ込むのだ。


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