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津軽藩起始 六羽川編 (1578-1580)  作者: かんから
第五章 開戦。安東軍侵攻 天正七年(1579)旧暦六月下旬
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虐殺 第二話

 蔵舘くらだては小高い台地の上にある。南を平川、北に大館山が迫る。周囲は土地が開け、敵がどのように進んでくるか一目瞭然である。しかしそのような場所ながらもったいないことに大規模な守備施設とはなれず、所詮は地方のしがない拠点であるので、大軍勢で押し寄せられたらどうなるかわからぬ。

 そこで蔵舘より後方の堀越ほりこしに向けて援軍要請の密使を送ったのだが、当然ながら安東と多田はこの動きを予期できていたので、密使を山中で切り捨てるのだ。なので為信の援軍が来るはずもなく、多田ただ唐牛かろうじも援軍を求めるはずがない。兵は一向にやってこない。為信としても安東が勢いづいている段階では直接に当たらず、少しでも勢いが削がれたところで出陣する方針だった。そこで経路上の拠点には、ある程度争ったのちに退却せよとの命を事前にだしていた。

 ただし蔵舘は事情が違う。逃れてきた兵らより唐牛と多田の三々目内がその実、安東に与しているという話。これでは勢いそのままに安東軍は津軽平野へ突入するし、これはとてもじゃないが見過ごせない。すっかり四方ともに囲まれているし、援軍がなければ自分らも退く道をもたらすことができぬ。



 これでは、討死するほかない。




 さて安東としても唐牛と目内つめないが通じている以上は間に挟まれている蔵舘は赤子も同然。(ことわり)を説いて屈服させてもよかった。大将の比山(ひやま)や目付の浅利(あさり)は実際にそのつもりでいた。しかしあの滝本(たきもと)が……。



「為信の兵は屈強で、なんだかんだで運が強い。いざ堀越と大浦を囲んだ時に、何がもとで崩されるかわかったものではない。」



 比山は首をかしげ、滝本が何を言いたいのかまだ理解できない。滝本は少しだけ蔑み、後には誇らしげに比山へと言う。




「ここ蔵舘で我らの行った調練がうまくいくかどうか試してみたいと思う。ちょうど……安東(あんどう)様自らが率いる本隊の到着が遅れているし……よき時間つぶしにもなろう。なまぬるい手は恨みを持った者が生き残り、後々に禍根を残す。」


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