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津軽藩起始 六羽川編 (1578-1580)  作者: かんから
第五章 開戦。安東軍侵攻 天正七年(1579)旧暦六月下旬
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多田の思惑 第二話

 こちら津軽つがる古懸こがけの不動明王は座っておはす珍しい仏様。それも汗をかきながら。誰も水をかけたわけではない。もちろんこの辺りは川沿いの細長い平野ながら相当な高地でもあるので、霧が立つと木造建築物の内側などに水滴が生ずることもあろう。それをわけもわからず当時の人が“汗”と見誤るのは仕方ないこと。汗は手に持つともしびに照らされて光る。


 そして滝本は問うてしまった、ここの寺の住職に。……住職は恐る恐る答える。少しだけ青ざめながら。




「はい。……こちらの方が汗をかいておられますと、津軽の地に不吉なことが起きると……。」


 顔色を窺いながら、その場から静かに後ずさりして帰ろうとする。”士気が下がる”とでも言われ、罰を受けそうな気がしたからだ。だがそんな想いと裏腹に滝本は言う。


「ならば、我らがその災難から救ってやらねば。為信を倒し、我らの治めるところとする。」




 そして駄々広い仏殿の中に控える兵らに向けて同じ言葉を申すのだ。兵らも同調し、“おお”と威勢をあげる。


 ……彼らとは別に安東軍大将の比山(ひやま)は滝本の隣で胡坐(あぐら)をかいているままだ。頭上の髪の毛がいかにも(かゆ)そうで、手櫛をいれるとパラパラとフケが舞い落ちる。先ほどまで兜をかぶっており蒸し暑かったので痒さはなおさらだった。ある程度かき終わると相当な快感を得たようで気持ちも晴れやかだ。


 一方で目付役の浅利(あさり)は落ち着いた(さま)で見ている。なるほど滝本は大変威勢よく、兵らの心も彼はしっかりとつかめている。ただし比山は自分のペースというものがあり、周りがどう動こうが乗せられることは無い。ある意味でどういう事態が起ころうとも動じないだろうが、時には()(はず)れな事をしでかすかもしれぬ。滝本と比山の間で火種になるか。

 ただし我ら安東軍が勝ち進みさえすれば問題にはならぬこと。そう考え浅利は目をつむる。


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