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津軽藩起始 六羽川編 (1578-1580)  作者: かんから
第四章 津軽為信、和平を探る 天正七年(1579)田植前
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久慈義勇軍 第三話


 確かに南部は安東へ攻め込むことはできぬ。しかし津軽へ侵攻するのは好き勝手やっていいわけである。安東が南側から攻め入る以上、南部はぶつからぬように反対の北側から攻め込むのが上策。ただし南部と安東が津軽を思うがままに奪い取った後、直接対決はどちらも避けるだろうが。雌雄を決する必要はない。



 あるいは“雌雄”を決することも考えに含むならば、先に津軽軍と争わせ相手方を徹底的に疲れさせる。その上で相手方を討てば津軽を総取りできる。さらには敵領まで奪うことができるか。






 考えるほどにきりがない。とにかく、津軽家は南部と安東、この二つによって運命が握られている。こちらで切り開くことはかなわぬ。これほどまでに兵力差が開いている以上……誰も“負ける”などとは言わぬ。異様な緊張感と共に、無理やり気持ちを高揚させることでなんとかしようともがいている。これは為信も、他の家来衆も同じだった。




 日は陰り、斜陽(しゃよう)すら過ぎ去った。三方に開け放たれていた襖の向こうより、ただ寒いだけの風が流れ込んできた。それは無音で、あるのは肌にあたる感触だけだ。


 一つ、誰かが言った。


「……襖を閉めましょう。それぞれの家屋敷へ。」



 誰も(うなず)きもしないが、それぞれ立ち上がり一室より離れようとする。……その時だった。急な知らせを持った家来が飛び込んできた。急ぎ東側の襖をあけ、注進する。顔は水まみれで……汗で衣装が湿っている。




「南方より、百名ほどの武者の一団がこちら津軽の領内へ向かっているとの由。」



 もう安東が動いたのか。田植え前だというに……。その場にいる誰もが驚いたが、続けて家来が言うには


「いえ、来たる方は坂梨さかなし峠、南部でございます。津刈(つかり)で申したには、なんでも久慈から参ったとか。殿の(おとうと)(ぎみ)で、久慈五郎(くじごろう)(ため)(きよ)と名乗ったと。殿……ご存じで。」


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