久慈義勇軍 第二話
いまや夕日が沈みかける館の広間にて話は続く。北以外の三方に襖があり、この日はいつもより少し暖かいので開け放たれていた。もう少しで夜なので、やかましい槌の音や土を掘る音は鳴り止む。
はたして安東はどれくらいの兵力で攻めてくるだろうか。為信の問いに八木橋里負が応える。
「草の報告では、どうも三千にもなるのではと。」
三千。我らの動かせる兵力の二倍以上ではないか。……最初は驚きこそすれ、すぐに“そうだろうな”と納得の心持ちになってしまう。為信は苦虫をかみしめたような顔で口を開いた。
「……だろうな。南部は安東へ攻め込むことができぬ。他の諸氏も。このたびの戦さばかりは。」
それもそのはず、なんと奥州の北のはずれの戦さであるのに、中央で勢力を張る織田家の威光が働いているのだから。安東は多額の献金を持って勅諚を引き出した。勅諚といっても朝廷の使者が来たわけではないが、田舎侍にとっては同じようなものだ。言葉の意味を混同している。
“これを妨げようとする者は、天下に対する逆賊である”
つまり
“この戦さの邪魔して安東に盾突く奴は、織田が日ノ本を制覇したときに決して優遇しない。あるいは潰す”
ということだ。いくら安東が比内扇田より北の津軽へ攻めかかろうとも、南部氏は絶好の機会だとしても東隣の鹿角より西の比内に攻めかかれない。恐る恐る八木橋は話を続ける。
「安東が最初から全力で来るか、それともいくらか分けて攻め寄せるかはわかりませぬ。ただ……」
言いにくいのか、大丈夫だ、話せ話せと周りも促す。
「先ほど入った一報では、南部は安東の津軽征討にかこつけて、外ヶ浜より進軍の意志があるようで……田植え後に奥瀬や堤など併せ二千兵が津軽へ乱入すると。定かではありませぬが……。」




