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津軽藩起始 六羽川編 (1578-1580)  作者: かんから
第四章 津軽為信、和平を探る 天正七年(1579)田植前
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久慈義勇軍 第二話

 いまや夕日が沈みかける館の広間にて話は続く。北以外の三方に襖があり、この日はいつもより少し暖かいので開け放たれていた。もう少しで夜なので、やかましい槌の音や土を掘る音は鳴り止む。




 はたして安東はどれくらいの兵力で攻めてくるだろうか。為信の問いに八木橋里負(やぎはしさちます)が応える。


「草の報告では、どうも三千にもなるのではと。」




 三千。我らの動かせる兵力の二倍以上ではないか。……最初は驚きこそすれ、すぐに“そうだろうな”と納得の心持ちになってしまう。為信は苦虫をかみしめたような顔で口を開いた。


「……だろうな。南部は安東へ攻め込むことができぬ。他の諸氏も。このたびの戦さばかりは。」




 それもそのはず、なんと奥州の北のはずれの戦さであるのに、中央で勢力を張る織田家の威光が働いているのだから。安東は多額の献金を持って勅諚ちょくじょうを引き出した。勅諚といっても朝廷の使者が来たわけではないが、田舎侍にとっては同じようなものだ。言葉の意味を混同している。


“これを妨げようとする者は、天下に対する逆賊である”


 つまり


“この戦さの邪魔して安東に盾突く奴は、織田が日ノ本を制覇したときに決して優遇しない。あるいは潰す”


 ということだ。いくら安東が比内(ひない)扇田(おうぎだ)より北の津軽へ攻めかかろうとも、南部氏は絶好の機会だとしても東隣の鹿角(かづの)より西の比内に攻めかかれない。恐る恐る八木橋は話を続ける。


「安東が最初から全力で来るか、それともいくらか分けて攻め寄せるかはわかりませぬ。ただ……」




 言いにくいのか、大丈夫だ、話せ話せと周りも促す。



「先ほど入った一報では、南部は安東の津軽征討にかこつけて、そとがはまより進軍の意志があるようで……田植え後に奥瀬(おくせ)(つつみ)など併せ二千兵が津軽へ乱入すると。定かではありませぬが……。」


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