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津軽藩起始 六羽川編 (1578-1580)  作者: かんから
第四章 津軽為信、和平を探る 天正七年(1579)田植前
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避けるために 第四話




「それが、“じょっぱり”よ。」


 為信はわざとにやけて、徳司(とくじ)に言ってのけた。“じょっぱり”とは津軽弁で意地っ張りという意味。どのように説得されても結局は何も考えを改めなかった(さま)をいう。津軽にはこのような気性の人物が多いとされ、無駄な争いというのもそれ相応に繰り返してきた。戦さを起こさない方が得策であっても、争う方を選んでしまう。……為信の生まれは津軽でないはずなのだが、地方の風情に染まってしまったのだろうか。


 豊前屋ぶぜんや徳司は一つため息をつき、飲み終わった後のお椀を下に置いた。そして為信に言うのだ。


「私のような秋田人には、わかりませぬなあ。」



 さもわざとらしく、あたかも分かり合えぬ他人のように言う。裏には行き着く先の哀しさを隠しながら。




 ……豊前屋という商家の本店は秋田にあり、かつて為信の求めに応じて大浦城下に支店を出した経緯がある。安東氏ともパイプがあるのでかつて安東と津軽(大浦)とで同盟を結ぶ上で重要な役割を果たした。

 だがこのたびの一件。安東は津軽との盟約を手切れとし、為信は何とかして戦さを避けたかった。だからこそ徳司と話しているのだが……長年に渡り親交を深めるうちに、歳の近い友達のようになっていた二人。これより先は、同じようにはいかぬ。



「……手元に届いた文章(もんじょう)には、安東は津軽を監視するためにこの屋敷に人をよこすそうです。大浦城下の拠点であれば、情報も多いでしょうから。……すると、為信様はこちらにいらっしゃらない方がよろしい。殺されでもされたら申し訳ないですから。」




 為信は先ほどまでのわざとらしいみを真顔に戻す。ゆっくりと頷き、……名残惜しそうに徳司へ話すのだ。


「次来るときは、安東へ従属を申し出る時だな。」


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