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津軽藩起始 六羽川編 (1578-1580)  作者: かんから
第四章 津軽為信、和平を探る 天正七年(1579)田植前
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避けるために 第三話

 豊前屋(ぶぜんや)徳司(とくじ)はこれまでの真顔から淋しそうな顔に変わった。ちょうどその時、襖の向こうより手習いがお椀にお茶をもってきた。……湯気がモクモクと立ち上がり、徳司の好むであろう少し熱めの温かさだろう。それをゆっくりと口につけるのだ。……呑みながら為信の顔を見る。彼は目をつむって、”終わる”のを待っている。徳司はさも悲しそうに為信に言った。


「これでは……なんともできませぬ。」



 為信も“そうであろうの”と、少しだけ気を落とす。もし己が浪岡を攻めていなければ……もしくは亡き御所号の御子が秋田へ連れ去られていなければ。歴史のIFなど語ればきりがないが、どうしても思考はそちらへ行ってしまう。……徳司はいう。


「なにも()(この)んでいばらの道を歩む必要はないのです。津軽の民が“氷開き”だからといってわざわざ冷たい氷を口に含む必要ないのと同じで、最初から温かい食べ物か飲み物でも体に入れていた方が健康的でよいでしょう。それをなぜ、まだ寒い春先にわざわざ冷たい刺激のあるものを選ぶのですか。なぜ為信様は戦さの起きる道を選ぼうとなさるのですか。」



……もう引けぬものは引けぬのだ。仮にも安東殿が私と同じ意志を持って民に平穏をもたらすかわからぬし……そこは彼も為政者なのだから、一応は取り組むであろう。ただし従ったとして権益を取られた後の我らはどうなる。夢希望はなく、一生使い走りのような生活。暮らしは貧しくなり、富は秋田へと吸い上げられる。そのような暮らしを認められるか。我が家臣だって津軽の民であるのは変わりないし、津軽家という存在が弱まれば年貢だって上がるだろうから百姓は嘆き苦しむ。……かといって戦さを起こして津軽家自体が滅びれば元も子もない。家来衆の家族は路頭に迷うし、これまで築いてきたものがすべて滅びる。民のために取り組んできた“防風”と“治水”の政策だってどうなるかわからない。


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