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津軽藩起始 六羽川編 (1578-1580)  作者: かんから
第四章 津軽為信、和平を探る 天正七年(1579)田植前
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避けるために 第二話


 口の中の氷がなくなると、二人は無言になってしまう。部屋向こうの軒先からは小鳥のさえずる音が聞こえ、暖かい光が優しさをもたらしているようにも思える。



 ……どちらかが話し出さねばならない。そうすると……やはり戦場を駆け巡る男であるので、為信の方から勇気を出して口を開くのだ。


「安東は、やはり動くか。」


 真顔で訊くと、真顔で返される。

「動きます。止まる理由がありませぬ。」


 さらに言うならば、周りが止める理由もない。

「……それで、お主から話を通すことも。」


「何を材料に。」


「いや……いまさら浪岡を手放すなどできぬ。」



 豊前屋(ぶぜんや)徳司(とくじ)は少しだけ目を下に落とす。そして近くを通りがかった手習いを呼び、氷のなくなったお椀に熱い茶を入れて持ってくるように頼んだ。手習いは急いで遠くへ駆けていく。すると徳司は話す。真顔のまま。


「浪岡がそのままならば、代わりに安東といえは海でしょうな。」


為信は少しだけ前かがみに詰め寄る。


「海というと。」


「領土の港を差し出す、例えば深浦(ふかうら)(あじ)(がさわ)、そしてすたれたとはいえ十三湊(とさみなと)。どれかかもしれませぬし、どれも全てかもしれませぬ。」



「それはできん。」


 即座に返した。鯵ヶ沢は津軽家の重要な収入源であるし、深浦はそれに劣るが防衛の意味でも欠かせぬ。十三湊は岩木川下流の最終地点。そこを抑えられると平野の(さち)は干上がる。利益を生まぬ荒れ野と化す。


「本当にそうですか……正しく申せば、十三湊はいまだ殿の領国ではないし、しいていえばだれの土地でもない。そこへ安東を招くだけ。それだけで安東は満足するのですぞ。」



 だがそれはすなわち、津軽家は安東へ従属するも同じ。十三湊を中心に海路をすべて抑えられるのだから。領土は保てど、手足をもがれたも同じ。


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