避けるために 第一話 +六羽川合戦前半図
岩木山の周辺には、“氷開き”という文化があったという。地中深く大きな氷を藁に包んで隠しておき、田植えの前にそれを取り出す。そして5㎝方形で割り、個々人の口に入れて食べる。食べきることで健康長寿を願い、今年のコメの豊作も願うのだ。
岩木山は旧来より大浦家の領内であったので、領民の団結や領主への忠誠心を高めるためにこのイベントを利用してきた。そして津軽為信の代になって以降、“氷開き”を行う場所は増え、新しく領国となった石川や大光寺、さらには遠く浪岡でも岩木山より採った氷を埋め、春になって取り出すのだ。
……さて、ここは為信のおひざ元である大浦だが、城下にある大きな商家の一室にて、とある二人が目の前のお椀に入った氷を見つめている。一人は大髭を蓄えた侍。動きやすいだろう薄い青の爽やかな筒袖。彼はもう少しで三十を越すか越さないかの歳塩梅である。もう一人の歳は少しだけ多い。寒がりな様で何重も白っぽい着物を身に着けている。なぜか顔つやがあり、少しだけ上品さも感じさせる。
いったい、この二人は何をしているのか。氷が目の前にある以上、きっと他の家々でもやっているだろう氷開きだ。すでに切り分けられている氷がお椀の中に入っている。碗は二つ、しっかりと氷は冷えたままで、底はまだ濡れていない。
大髭の侍、津軽為信はいい加減先に食べようと手を出そうとした。それをもう一人の男、商人の豊前屋徳司が手を口の前に無理やり出して為信の食べようとするのを止める。その様はなにやら友人が悪ふざけをしているかのような、仲の良さを感じさせる。そのうち為信は無理やり氷を口の中に含んでしまう。続いて徳司も氷を口の中に入れた。二人は互いの顔を見てニヤリとするのだが……そのうち徳司は耐えられなくなり、口よりポロっと氷を出してしまうのである。
六羽川合戦前半(自己作成分)
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