トサームを求め 第四話
石堂頼久は北畠顕氏に説得を続けた。しかしながら彼は首を横に振るだけ。彼が動けば各地に散らばる旧浪岡北畠氏の者らを糾合することもできようし、北畠同士が戦場でぶつかるわけにはいかぬので……水木御所、すなわち津軽為信の設けた傀儡政権の面々も考え直す。後は我らと裏で手を結び……どこかのタイミングで安東へ寝返ればよい。北畠の御家門が自ら戦場に立つとすれば、あちらは必死にそれを避けようと動くはず。そのきっかけとして顕氏が表に立つことが必要なのだ。
だが顕氏は応じず。そのうち……安東軍の先遣隊は比山氏が動かすことに決まり、勝ちが見えてきた時点で安東愛季も津軽へ乗り込むことになった。北畠は本隊におらず。それだけならよい。秋田に逃げてきた旧浪岡北畠氏の意志は統一されず、添えの軍勢としての合力……。一応は浪岡奪還が名目なのだから、戦場にいなければならない。ただし頼りにはされていない。
……あくまでそれだけならよい。それは……冬が過ぎ去ろうかというときに起きた。まさかというべきか、お前は南部家臣であったろうに。
滝本重行は安東愛季の元へはせ参じた。
愛季はたいそう喜び、滝本もそれに応えた。
“南部家臣の中には主家に対して不満を持つものも多い。津軽為信に領地を盗られてより奪い返すのを待ち望んできたが、いよいよもって主家は動かず。安東氏の元で領地を取り戻してやると保証しさえすれば、南部家臣という立場を捨ててでもはせ参じる者はきっと多いはず……”
さて滝本の呼びかけに応じて、南部領より脱して多くもの将兵が秋田へとなだれ込んできた。彼らで一軍をなし得るほどに。
滝本が秋田へやってきたことに一番驚いたのは顕氏であった。油川で仲間らは彼に“調練”という名目で苦しめられて、こちらへ命がけで逃避行したというのに……。また会う羽目になった。




