トサームを求め 第三話
……これで大手を振って出兵できる。己自身が兵を率いるか、代わりの者が先頭で指揮をするのかはいずれ決めるが、これぞ念願が叶ったと同然。
安東愛季は織田家からの使者を丁重に送り出すにあたり、脇本の港にて数多くの旗を掲げる。扇の旗と木瓜の旗が交互に入り乱れ、民衆に両家の結束をアピールするのだ。大陸物の銅鑼を叩かせ、大船が今にも出航せんとする。
愛季の横で立つのは石堂頼久、旧浪岡北畠家臣であり、こちら秋田へと御所号の御子、つまり愛季の娘と孫を連れてきた名誉ある者である。……次第に風が強まり、寒さをあからさまに感じさせてくる。二人にも当然のように風は吹きつけるのだが、凍えるどころか熱気に包まれているかのよう。
“雪解けし、田植えが終わればいよいよ”
“うむ。その時はおぬしが先頭に立つか”
きっとこのような話でもしているのだろう。そのうち織田の使者が乗る大船は港より次第に遠ざかっていく。延々と銅鑼は鳴り響き、船が点になるまで続けさせるつもりだ。……少しうるさいなと感じるくらいが丁度よい。
石堂は愛季にいう。
「はっ……しかし私なんぞより適任はおりますゆえ。」
「ほう、どうせ油川から来た北畠顕氏殿か。いくら御家門とはいえ、戦のする気のない者に任せるわけには参らぬ。」
確かに安東が津軽に攻めかかるということは、津軽為信に属した旧浪岡北畠の勢力とも争うことになる。かつて浪岡を守ろうと共に努力したものが同士討ちしかねない。……なので逃げるだけで戦には出たくないという者らも一定数いた。それでも、石堂は強く推す。
「私が決意させます。この命をかけてお約束いたします。彼が動いてこそ……水木御所の者らも手を結ぶというもの……。」




