トサームを求め 第二話
凛とした空気。ただし外に比べたら少しだけ暖かい。冷たい風が体にあたらない分そうであるが、暖かいといえどもヒンヤリとしたなにかを感じる。それは城の大広間が広すぎるせいなのか、はたまた緊張より生まれるものなのか。
中央より来た使いの者は上座にて勅諚を読み上げる。安東愛季並びにその家来衆は下座にて平伏してその声を聴き入る。……勅諚と申しても朝廷からの使者ではないが、すでにそれと同義。……天下に権勢を誇る織田信長、その三男である北畠信意(後の織田信雄)の家臣、田丸とかいう男。貴人の血筋らしく武人とは違う気品あふれる顔つきをしている。そんな彼は愛季らに対して勅諚を読み上げる。
「安東氏が浪岡北畠の御子を守りたること、まことにあっぱれなこと。総元である伊勢北畠、わが主君もお喜びである。」
甲高い声が響く。
伊勢北畠氏は浪岡北畠氏の本家筋。ただし血統自体は切り替わっており、すでに織田家の家門の一つである。安東氏は毎年のように織田家に多額の献金を行っており、その返礼としてこの度はあちらより使者がやってきた。やってきたこと自体が中央とのパイプの誇示になるし、なによりポイントは北畠総元の家臣が来たということ。……田丸は続きを読み上げる。
「わが主君は御子が浪岡の旧領に復帰すること、たいそうお望みである。これを妨げようとする者は天下に対する逆賊である。」
家来衆の誰かが感嘆の声を漏らした。するとすぐ横より“静かに”と制せられる。
「このこと、周りの諸氏に知らせるべきところである。なお北畠の御子を守りたることの褒美として、汝に北畠の家門を名乗ることを許す。」
……予想以上の成果だ。愛季は顔こそ神妙に聴いているが、内心は喜びですべてが占められている。笑いが絶えぬ。




