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津軽藩起始 六羽川編 (1578-1580)  作者: かんから
第三章 安東愛季、津軽征討を決断する 天正七年(1579)雪解
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トサームを求め 第二話

 凛とした空気。ただし外に比べたら少しだけ暖かい。冷たい風が体にあたらないぶんそうであるが、暖かいといえどもヒンヤリとしたなにかを感じる。それは城の大広間が広すぎるせいなのか、はたまた緊張より生まれるものなのか。



 中央より来た使いの者は上座にて勅諚(ちょくじょう)を読み上げる。安東(あんどう)(ちか)(すえ)並びにその家来衆は下座にて平伏してその声を聴き入る。……勅諚と申しても朝廷からの使者ではないが、すでにそれと同義。……天下に権勢を誇る織田信長、その三男である北畠(きたばたけ)(のぶ)(おき)(後の織田(おだ)(のぶ)(かつ))の家臣、田丸(たまる)とかいう男。貴人の血筋らしく武人とは違う気品あふれる顔つきをしている。そんな彼は愛季らに対して勅諚を読み上げる。




「安東氏が浪岡北畠の御子(みこ)を守りたること、まことにあっぱれなこと。総元である伊勢北畠、わが主君もお喜びである。」


 甲高かんだかい声が響く。



 伊勢北畠氏は浪岡北畠氏の本家筋。ただし血統自体は切り替わっており、すでに織田家の家門の一つである。安東氏は毎年のように織田家に多額の献金を行っており、その返礼としてこの度はあちらより使者がやってきた。やってきたこと自体が中央とのパイプの誇示になるし、なによりポイントは北畠総元の家臣が来たということ。……田丸は続きを読み上げる。



「わが主君は御子が浪岡の旧領に復帰すること、たいそうお望みである。これを妨げようとする者は天下に対する逆賊である。」



 家来衆の誰かが感嘆の声を漏らした。するとすぐ横より“静かに”と制せられる。




「このこと、周りの諸氏に知らせるべきところである。なお北畠の御子を守りたることの褒美として、(なんじ)に北畠の家門を名乗ることを許す。」



 ……予想以上の成果だ。愛季は顔こそ神妙に聴いているが、内心は喜びですべてが占められている。笑いが絶えぬ。


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