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津軽藩起始 六羽川編 (1578-1580)  作者: かんから
第三章 安東愛季、津軽征討を決断する 天正七年(1579)雪解
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堤氏復帰 第五話




「して……いまだ横内(よこうち)に留め置かれている大光寺殿の遺子は。」


 奥瀬(おくせ)(つつみ)則景(のりかげ)に問う。滝本(たきもと)重行(しげゆき)田名部(たなぶ)へと追いやったが、彼の主筋にあたる大光寺(だいこうじ)氏の幼子(おさなご)は横内へと取り残されてしまった。だがこのまま留め置くにもいかない。……則景は少しだけうなり、かといって答えを返すわけでもない。すると奥瀬は続けて言う。



「ひとまず七戸(しちのへ)隼人(はやと)殿の預かりとして、(ふく)(だて)平内(ひらない)町)へ移そうかと考えるのだが……よいか。」



 則景は頷いた。横の(みょう)(せい)はだまって聞いているだけ。男どもの政治的なやりくりに興味なく、(のり)(あき)……今は則景か。生きていたことへの嬉しさと彼の奥底への恐れ。さまざまな想いに心は捕われ、どう表せばよいかまったくわからぬ。



 彼女の想いとは別に、男どもの話は進む。そして奥瀬は言った。


「このたびそとがはまの平和のため、さらには津軽つがる為信ためのぶへ事を優位に進めるため、……きついだろうが則景殿には嫁をとってもらいたい。」




 則景はすぐに“わかった”と応じた。しかし……なんだろうか、本心でないことはわかる。妙誓みょうせいにはわかってしまう、心の動きが。昔の馴染(なじ)みなのだから。さらにいえば知らない他人と結ばれるよりは私と……。尼なんかになりたくなかったし、今すぐにでもこの袈裟(けさ)を脱ぎ捨てたい。彼の想いなんか無視して口走ってしまおうか……。



 奥瀬は則景に語り続ける。


「浪岡北畠の旧勢力で態度を決めていない奴らがいての。津軽軍の侵攻を受けなかった地域、大きいところ二つだが、そのうちの一つ(いん)(づめ)朝日(あさひ)氏より嫁を迎え入れていただきたい。」






 ……すでに事は整っているのだろう。妙誓は男どもの真剣な話の裏で落胆した。





 さて今の五所川原ごしょがわらより北方にかけて浪岡北畠氏の旧勢力が残留していた。岩木川沿い近く山際の拠点に諸氏があり、代表的なものとして飯詰朝日氏と原子はらこ菊池きくち氏が存在する。一応は津軽為信が設けた傀儡政権である水木みずき御所へ属する形には至ったが、為信に挨拶へと伺うわけでもなく様子見に徹してみた。この二氏が動かないとなると、さらに北方の諸氏は何もできない。

 ならばこれまで通り南部の助けを借りるかと思いきや、直接つながる交通路は浪岡が落ちたので津軽氏に遮断されている。いまでこそ県道26号線が存在し油川と五所川原を結んでいるが、これもあくまで明治時代にできた新道である。残されたルートは岩木川を下流へ、海路で津軽半島を十三湊より竜飛、三厩、蟹田、そして油川へと遠回りするほかない。なのでいざというときに助けを求めることができるか……危ういところである。


 それでもこの婚姻によって飯詰朝日氏ら諸氏は南部方に付くことを決断。二方面より同時に動き、はさみ撃ちにすればこの上ないこと。威圧をかけるにも十分だ。


 津軽為信の敵は一つ増えたのである。





 そして、あろうことか南にも……。


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