堤氏復帰 第三話
兄妹して共に火鉢で温まり、庭の景色を楽しむ。これでは温まりたいのかそうでないのかわからぬ。だが妹の妙誓はわざわざ言い返さずに、そのままにしておいた。……すると上の方より静かに小雪が舞い始めた。妙誓はちらりと横の兄を見やるが、兄の奥瀬は何もしようとしない。とりあえずそのままだが……これでは風邪をひいてしまうと妙誓、突然立ち襖をすべて閉めた。
奥瀬は妹の様を見て苦笑する。
「妙……妙は変わらぬのお。」
妙誓はわざと横向きで文句を言う。
「兄上こそ。大切な御身なのですから。」
ため息をつき、再び兄の横で火鉢にあたりだす。すると奥瀬は火鉢の棒を妹に渡し、頭がかゆくなってきたので……少しだけさわり、手を櫛のように使って髪を整える。思わず少しだけフケが舞う。妹は呆れる。……兄とは違う方を見てみる。奥瀬はお構いなしにそんな妹に対して語りだした。
「今日は幽霊が出るぞ。」
何を申しているやら。妹はそう感じるが、兄は話を止めるそぶりはない。
「このたび南部家の意向でな……油川、ひては外ヶ浜の秩序を回復するには、旧来の権力を持ってあたるのが一番良いと。」
火鉢は少しだけ勢いを増した。
「故に、外ヶ浜代官の職に堤氏が復帰することになった。横内城主に戻る。」
“えっ”と思わず妙誓。兄の顔を見るが……嘘をついているようではない。
「そうだろうの……。堤氏はあの津軽為信と縁戚。正確に言えば……大浦家の先代、大浦為則の娘が堤則明に嫁いだ。だからこそ為信が決起したとき謀反の疑いをかけられ……誅殺された。」
はっとさせられた。“幽霊”の意味を。もしかして……私の本当に好きな人が……縁側より足音がする。




